有給休暇の取得状況を把握し通知する仕組みをAIで作る

有給休暇の取得状況を毎月つかみ、取得が足りない人にだけ知らせる。この仕組みはAIの助けを借りて、専門の担当者なしで作れます。読者が最初に気になるのは「本当に自社で動くのか」でしょう。動きます。ただし土台になる表(誰にいつ何日付与したか)が電子データで揃っていることが条件です。一般的な業務量から試算すると、従業員30名の会社で月6.5時間が空く計算です(後述)。取得時季をどうするかの判断は、人が担います。
有給の取得状況を把握する作業は、どこに手間がかかっているのか
手間の正体は「人ごとに付与日がばらばら」なことです。4月入社の人と10月入社の人では、1年の区切りが半年ずれます。
一般に、年10日以上の有給が付与される従業員には、付与日から1年以内に5日を取得させる義務があります(労働基準法39条7項。厚生労働省「年次有給休暇の時季指定」ページで確認)。会社は取得状況を記録する管理簿も作る必要があります(労働基準法施行規則24条の7)。管理簿は、有給を与えた期間中と、その期間の満了後5年間の保存が条文の定めです。ただし厚生労働省の資料では「当分の間は3年間」と案内されています(2026年10月時点で確認。厚生労働省「年次有給休暇の時季指定」ページ、e-Gov法令検索の同規則24条の7)。
この義務を守るために、担当者が毎月やっていることは次の4つです。
- 申請書や勤怠システムから、取得日を管理簿に転記する
- 人ごとに、付与日から数えた「期限」と「残り日数」を計算する
- 5日に届いていない人を洗い出す
- 本人や上司に、声かけの連絡を書いて送る
どれも決まった手順の繰り返しです。ここがAIと相性のよい部分です。
AIに任せられるのは、表づくりと通知文の下書きです
大事な線引きを先に書きます。「5日に足りているか」の判定は、AIに考えさせず、決まった計算式で行います。 文章を作るAIは、数字の判定で間違えることがあるためです。
AIの役目は次の2つに絞ります。
- 計算式の入った管理表を作る(作り方を聞きながら、表計算ソフトの式を書いてもらう)
- 通知文の下書きを書く(人ごとの数字は式が出し、AIは言い回しだけを担当する)
| 工程 | 内容 | 担当 |
|---|---|---|
| 1. 取得日の転記 | 申請や勤怠データから管理表に取得日を入れる | 決まった手順(AIが作った式・取り込み設定) |
| 2. 期限と残り日数の計算 | 付与日から1年後の期限、取得済み日数、残りを出す | 計算式 |
| 3. 対象者の抜き出し | 期限までの残りに対して取得が足りない人を出す | 計算式 |
| 4. 通知文の下書き | 本人向け・上司向けの文面を作る | AI |
| 5. 通知の送付確認 | 送る前に内容と宛先を見る | 人 |
| 6. 取得時季の相談・決定 | いつ取ってもらうかを本人と決める | 人 |
| 7. 会社としての時季指定 | 取得が進まない人への指定の判断 | 人 |
1〜3は、一度作れば毎月同じ結果が出ます。4はAIが速く、5〜7は人でなければ務まりません。
通知は「いつ・誰に」出すのか(基準の決め方)
通知が多すぎると読まれなくなります。取得が足りない人にだけ、段階を分けて出すのが基本です。次の基準は一例です。自社の付与日と忙しい時期に合わせて変えてください。
| 付与日からの経過 | 取得日数 | 通知先 | 内容 |
|---|---|---|---|
| 6か月経過 | 0日 | 本人 | 取得予定を聞く一言 |
| 9か月経過 | 5日未満 | 本人と上司 | 残りの期間と、取れそうな時期の相談 |
| 11か月経過 | 5日未満 | 本人・上司・担当者 | 期限まで1か月であることの警告 |
| いつでも | 5日以上 | なし | 通知しない(通知の数を減らす) |
基準の数字(6・9・11か月)は、このサイトでの一例であり、法律で決まった値ではありません。期限直前に一斉に慌てないよう、3回に分けているだけです。
有給の把握と通知は何時間減るのか(試算)
従業員30名、有給の管理を総務・人事の担当者1人が兼務している会社を想定して試算します。
| 作業 | いまの時間(月間) | AI活用後 | 差 |
|---|---|---|---|
| 取得日の管理簿への転記 | 3時間 | 1時間 | 2時間 |
| 期限と残り日数の計算 | 2時間 | 0.25時間 | 1.75時間 |
| 取得が足りない人の洗い出し | 1.5時間 | 0.25時間 | 1.25時間 |
| 通知文の作成と送付 | 2時間 | 0.5時間 | 1.5時間 |
| 合計 | 8.5時間 | 2時間 | 6.5時間 |
前提は次のとおりです。
- 従業員30名で、申請の記録が紙ではなく電子データ(勤怠システム、または表計算ソフト)にある
- 「いまの時間」は、手作業での転記・計算・連絡を含む一般的な業務量から試算した目安で、実測データではない
- 「AI活用後」は、表と式を最初に作り込み、毎月は結果の確認と送付前のチェックだけを人が行う想定
- 最初の表づくりには別途数時間かかる。この時間は上の表に含めていない
- 年間では 6.5時間 × 12か月 = 78時間。時給2,500円で換算すると年195,000円分(時給は仮定)
付与日がばらばらな会社ほど、いまの時間は長くなり、差は大きくなります。逆に、全員の付与日を同じ日にそろえている会社は、もともとの手間が小さく差も小さくなります。
作り方の手順(担当者が1日で試せる範囲)
最初は全員分ではなく、5人分で試すのが安全です。次の手順で進めます。
- 管理表を1枚用意する。列は「社員番号・付与日・付与日数・取得日(複数)・取得済み日数・期限・残り日数」
- 名前は入れず、社員番号だけにする(理由は後述)
- AIに、表計算ソフトの式の書き方を聞く(下の文例1)
- 5人分のデータで計算させ、担当者が手計算した結果と一致するか見る
- 一致したら全員分に広げる
- 通知文の下書きをAIに作らせる(下の文例2)
- 毎月1回、結果を確認してから送る。最初の3か月は必ず手で見比べる
AIへの指示文の文例1(管理表の式づくり)
表計算ソフトで、年次有給休暇の管理表を作りたいです。
次の列があります。
A列: 社員番号、B列: 付与日、C列: 付与日数、
D列: 取得日の件数、E列: 期限(付与日から1年後)
やりたいこと:
・F列に、今日の日付から見た「期限までの残り日数」を出す
・G列に、取得日の件数が5に満たなければ「要通知」、5以上なら空欄と出す
使っているソフトは【ソフト名】です。
セルに貼れる式を、初心者向けの説明つきで教えてください。
【ソフト名】を、自社で使っているソフトの名前に置き換えます。列の並びが違う場合は、列の記号を自社の表に合わせて直します。
AIへの指示文の文例2(通知文の下書き)
有給休暇の取得を促す社内メールの下書きを書いてください。
相手: 付与から9か月がたち、取得日数が5日未満の従業員
目的: 期限までに5日取得できるよう、取得予定を教えてもらう
条件:
・責める言い方にしない
・「○月○日までに」の書き方の空欄を残す
・200字以内、敬体
「○月○日」の空欄には、担当者が人ごとの期限を入れます。ここに実際の日付や名前を入れて、外部のAIに貼らないようにします。
導入前チェックリスト
始める前に、次の点を確認してください。
□ 従業員ごとの付与日と付与日数が、電子データで手元にある □ 有給の取得日が、電子データで記録されている(紙の申請書だけではない) □ 通知を最終的に送る人(担当者)が決まっている □ 使うAIに、従業員の名前や個人情報を入れない運用を決めた □ 最初の3か月は、AIが作った数字を手で見比べる時間を確保した
1つでも空いていれば、まずそこを埋めてください。電子データが無い場合、AIより先に記録の電子化が必要です。
任せてはいけないところ
次の3つは、人が持ち続けます。
- 取得時季の決定。 本人の希望と現場の忙しさを見て決める仕事です。AIには現場の事情が見えません
- 時季を指定する判断。 会社側から取得日を指定するかどうかは、労務上の責任が伴います(時季を指定するときは、指定することをあらかじめ本人に明らかにした上で、本人の意見を聴く必要があります。聴いた意見は尊重する努力義務があります。労働基準法施行規則24条の6、e-Gov法令検索で確認)
- 数字の最終確認。 5日未満の人が漏れていないかを、最初の3か月は人が確認します
なお、従業員の名前・社員番号・取得日は個人情報です。無料のAIツールの多くは、入力内容が学習に使われる設定になっている場合があります【各自確認:使うツールの設定画面で確認】。名前を入れず、式づくりや文面づくりだけに使えば、この問題はほぼ避けられます。
よくある質問
Q. 勤怠システムに有給の管理機能がすでにあります。それでも自分で作る意味はありますか。
まず、いま使っているシステムの機能を調べてください。取得状況の一覧と通知の設定があれば、そちらを使うほうが手間は少なくなります【各自確認:契約中のシステムの機能一覧で確認】。表とAIで作るのは、システムに機能が無い場合や、システムが無い場合です。
Q. パートやアルバイトも、この仕組みの対象になりますか。
有給の付与日数は、働く日数によって変わります。10日以上付与される人が、5日取得の対象です【各自確認:週の勤務日数ごとの付与日数は、労働基準法39条3項と同法施行規則24条の3、厚生労働省の案内で確認】。管理表には全員を入れ、付与日数の列で対象かどうかを分けるとよいです。
Q. 通知文にAIが間違った日数を書くことはありませんか。
日数はAIに書かせず、表の式が出した数字を人が文面に入れます。文例2のように、数字の部分は空欄を残す使い方が安全です。
Q. 従業員が10人未満の会社でも、仕組みを作る意味はありますか。
5人分の表なら、AIで式を作るのは30分ほどです。意味があるのは、期限の見落としを防げる点です。対象者が少ないほど、1人の見落としの影響が大きくなります。
Q. 付与日が人ごとにばらばらです。全員の日付をそろえたほうがよいですか。
全員の付与日を同じ日にそろえる方法は制度としてありますが、切り替え時に従業員が不利にならない設計が必要です【各自確認:付与日をそろえる場合の条件は、厚生労働省の年次有給休暇の案内で確認】。まずは付与日がばらばらのまま、表で管理する形で始められます。
読んだ内容の確認に3問だけ。押すと答えが開きます。
Q1. 有給の取得日数が5日に足りているかの判定は、AIの文章づくりに任せず、決まった計算式で行うほうがよい。
○ — 数字の判定は計算式で固定し、AIは通知文の下書きに使うと本文で述べている。
Q2. 誰にいつ有給を取ってもらうかの最終判断も、AIが自動で決めてよい。
× — 取得時季の判断は本人の希望や現場の忙しさを踏まえた人の仕事だと本文で述べている。
Q3. 対象者の洗い出しと、通知文の下書きづくりは、AIに任せやすい作業である。
○ — 表から条件に合う人を抜き出し、文面を作る作業は決まった手順の繰り返しだと本文で述べている。
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いくつかの質問に答えると、AIに任せられる仕事と減らせる時間の目安が出ます。運営: 市瀬 大義(福岡。前職で経営企画室長を経て、執行役員CFO)
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