ホーム›記事›ストレスチェック 実施事務をAIに任せる範囲と年8.5時間の試算
人事

ストレスチェック 実施事務をAIに任せる範囲と年8.5時間の試算

結論

ストレスチェックの事務のうち、AIに任せてよいのはどこまでか。答えは「案内文・未受検者への催促・報告書類の下書き」までです。従業員50名の会社で、この3つを含む事務は年に14.5時間ほどかかると見て、AI活用後は6時間ほどになる計算です(差は8.5時間。後述の試算)。ただし、個人ごとの結果を扱う工程はAIに入れません。面接指導の判断も人が持ちます。

ストレスチェックの実施事務は、どこまでAIに任せられるのか

まず、制度の基本を確認します。ストレスチェックは、従業員の心の負担の度合いを調べる検査です。常時50人以上の従業員がいる事業場では、年1回の実施が義務です(労働安全衛生法66条の10)。50人未満の事業場は、2026年10月時点では「当面の間」努力義務です(厚生労働省「小規模事業場ストレスチェック制度実施マニュアル」令和8年2月)。ただし、2025年5月14日公布の改正法(令和7年法律第33号)で義務に変わります。施行日は2028年4月1日です(令和8年6月10日公布の令和8年政令第195号。厚生労働省「ストレスチェック制度・メンタルヘルス対策」のページと、滋賀・佐賀など各労働局の周知ページで確認。2026年10月19日時点)。なお、集団分析を個人が特定されない方法で行うことを労働安全衛生規則に明記する改正は、2027年4月1日の施行です(同労働局の周知ページ)。

事務の流れは、大きく次の6段階です。

  1. 実施計画を決める(いつ・誰に・どの方法で)
  2. 対象者に案内を出す
  3. 受検状況を確認し、未受検者に催促する
  4. 結果を本人に返す(実施者が担当)
  5. 部署ごとに結果をまとめて見る分析と、社内への報告
  6. 実施状況の報告書類を、労働基準監督署へ出す(1年以内ごとに1回、所轄の労働基準監督署長へ報告。労働安全衛生規則52条の21。e-Gov法令検索の条文で確認済み。常時50人以上の労働者を使用する事業者が対象で、報告は電子情報処理組織を使って行う)

1・2・3・5・6には、文章を書く作業と表を整える作業が多く含まれます。ここがAIの使いどころです。4は個人の結果そのものを扱うため、AIには触らせません。理由は次の章で説明します。

AIに入れてはいけない情報は何か

ストレスチェックの個人結果は、本人の同意なしに会社(事業者)へ渡してはいけない情報です(労働安全衛生法66条の10第2項。e-Gov法令検索で確認)【各自確認:個人結果の取り扱いは、厚生労働省のストレスチェック制度実施マニュアルで確認】。また、結果を扱う事務を手伝う担当者には、人事の権限を持つ人(採用・解雇・異動・昇進を決める立場)を充てられない決まりがあります(労働安全衛生規則52条の10第2項。条文は「検査を受ける労働者について解雇、昇進又は異動に関して直接の権限を持つ監督的地位にある者は、検査の実施の事務に従事してはならない」。e-Gov法令検索で確認)。

会社の中でさえ、見られる人が限られている情報です。これを外部のAIツールに貼ると、どこまで見られるのか、会社として説明できなくなります。無料のAIツールの多くは、入力内容が学習に使われる設定になっている場合があります【各自確認:使うツールの設定画面で確認】。

このサイトでは、次の線引きを勧めます。

情報の種類 AIに入れてよいか
案内文・催促文の元になる文面(名前なし) 入れてよい
実施日・期限・所要時間などの一般的な情報 入れてよい
名前を抜いた人数の集計(受検者数・未受検者数) 入れてよい
従業員の氏名・社員番号と受検有無のひもづけ 入れない(社内の表計算ソフトの式で処理)
個人ごとの点数・高ストレス判定の有無 入れない
10人未満の少人数グループの集計結果 入れない(個人が推測できるため。厚生労働省の「小規模事業場ストレスチェック制度実施マニュアル」(令和8年2月)では、集団の単位が10人を下回る場合は個人が特定されるおそれがあるため、原則として集団分析の結果の提供を受けてはいけないとされています。この「10人」は在籍者数ではなく、実際の受検者数で数えます)

つまり、AIには「文章の型」と「名前のない数字」だけを渡し、個人にひもづく情報は社内の表計算ソフトの中で処理します。

任せられる事務と、人が持つ判断の切り分け

この表では、6段階の事務を「AIに任せられる度合い」で分けます。

事務 中身 担当
実施計画の下書き 日程・対象・案内の流れを文書にする AIが下書き、人が決定
案内文の作成 対象者向けの通知文 AIが下書き、人が確認して送付
対象者リストの整理 入社・退職・休職の反映 表計算ソフトの式(AIは式の書き方を教える)
未受検者の抽出 受検記録との突き合わせ 表計算ソフトの式(担当者が実行)
催促文の作成 未受検者向けの文面 AIが下書き、人が確認して送付
個人結果の返却 本人へ結果を渡す 実施者(医師・保健師など)が担当。AIは使わない
部署ごとの集計結果の報告文 名前のない数字を文章にする AIが下書き、人が確認
労基署への報告書類 実施状況を書類に記入する AIが下書き、人が確認して提出
面接指導の対応 高ストレスの人の申出への対応 人と専門職

表の中で「受検有無を突き合わせる」作業は、AIに任せず表計算ソフトの式で行います。数字の判定を文章づくりのAIにやらせると、間違うことがあるためです。

実施事務は何時間減るのか(試算)

従業員50名の会社で、人事・総務の担当者1人が年に1回のストレスチェック事務を回す場合を試算します。外部の実施機関に検査そのものを委託している会社でも、案内・催促・社内報告の事務は会社側に残ることが多いため、その部分を対象にしています。

作業 いまの時間(年間) AI活用後 差
対象者リストの作成・更新 2時間 0.5時間 1.5時間
実施計画・案内文の下書き 2時間 0.5時間 1.5時間
受検状況の確認と未受検者への催促 4時間 1.5時間 2.5時間
部署ごとの結果の社内報告文の下書き 3時間 1.5時間 1.5時間
労基署への報告書類の下書きと記入 2時間 1時間 1時間
記録の整理・保存 1.5時間 1時間 0.5時間
合計 14.5時間 6時間 8.5時間

前提は次のとおりです。

  • 従業員50名、実施は年1回。受検は社内のパソコンまたは専用の画面で行う想定
  • 「いまの時間」は、文書作成・表の整理・催促の連絡を含む一般的な業務量から試算した目安で、実測データではない
  • 「AI活用後」は、文面の型と表の式を一度作り込み、毎年は数字と宛先の確認だけを人が行う想定
  • 最初の準備(表の式づくり、文面の型づくり)には別途数時間かかる。この時間は上の表に含めていない
  • 年間の換算は 8.5時間 × 1回 = 8.5時間。時給2,500円で換算すると 21,250円分(時給は仮定)

数字は大きくありません。年に1回の仕事だからです。それでも試算に値するのは、催促の連絡が実施期間中の数日に集中し、その間の担当者の通常業務が止まりやすいためです。減った時間は、期間中の忙しさを軽くする効果として現れます。

使い方の手順と文例

初めて使う年は、次の手順で進めます。

  1. 実施計画(日程・対象・期限)を、担当者が先に決める
  2. 対象者リストを表計算ソフトで整え、受検の記録欄をつくる(名前と受検有無は、この表の中だけで扱う)
  3. 案内文の下書きを、AIに作らせる(下の文例1)
  4. 実施期間の途中で、表から未受検者を抜き出す(AIは使わず、式で行う)
  5. 未受検者向けの催促文の下書きを、AIに作らせる(下の文例2)
  6. 実施後、名前のない集計の数字だけをAIに渡し、社内報告文の下書きを作らせる(下の文例3)
  7. すべての文面を担当者が読み、宛先と日付を確認してから送る

AIへの指示文の文例1(案内文の下書き)

従業員向けに、ストレスチェックの受検案内の社内メールの下書きを書いてください。
条件:
・受検期間は【開始日】から【終了日】まで
・所要時間は約【所要時間】
・結果は本人にだけ返り、会社には本人の同意なく渡らないことを一文で入れる
・受検方法は【受検方法】
・責める言い方にしない。300字以内、敬体

【開始日】【終了日】【所要時間】【受検方法】を、自社の実施計画の内容に置き換えます。「結果は本人の同意なく会社に渡らない」の一文は、自社の運用が実際にそうなっているときだけ残します。

AIへの指示文の文例2(未受検者への催促文)

ストレスチェックをまだ受けていない従業員への、催促の社内メールの下書きを書いてください。
条件:
・受検期限は【終了日】であることを明記する
・受けにくい事情がある場合は【相談窓口】に相談できると書く
・受けなかった場合の不利益を示唆しない
・「○○さん」の呼びかけ部分は空欄で残す
・200字以内、敬体

【終了日】と【相談窓口】を自社の内容に置き換えます。「○○さん」の空欄には、担当者が送る直前に名前を入れます。名前を入れた文面を、そのままAIに貼り直さないようにします。

AIへの指示文の文例3(部署ごとの結果の報告文)

次の数字をもとに、社内向けのストレスチェック実施報告の下書きを書いてください。
数字(名前なし):
・受検率: 全体【全体の受検率】、A部門【A部門の受検率】、B部門【B部門の受検率】
・前回の全体受検率: 【前回の受検率】
条件:
・数字を変えない、増やさない
・原因の推測を書かない(数字の事実だけを書く)
・個人が特定される書き方をしない
・300字以内、敬体

数字の置き換え先は、社内の集計表の値です。10人未満の部署は、数字を出さず「少人数のため非公表」と書く扱いにします【各自確認:少人数の集計の扱いは、厚生労働省のストレスチェック制度実施マニュアルで確認】。

導入前チェックリスト

始める前に、次の点を確認してください。

□ ストレスチェックの実施者(医師・保健師など)と、実施事務を担当する人が決まっている □ 事務担当者は、人事の権限(採用・解雇・異動・昇進の決定)を持たない人になっている(労働安全衛生規則52条の10第2項) □ 外部の実施機関に委託している場合、案内・催促・集計の事務が委託の範囲に含まれるかを契約書で確認した □ AIに入れる情報は「名前のない文面と数字」だけと、担当者全員で決めた □ 使うAIツールの、入力内容の扱い(学習に使われるか)を設定画面で確認した □ 送る前に、宛先と日付を人が確認する手順を決めた

1つでも空いていれば、まずそこを埋めてください。とくに担当者の要件は、AIを使う前に決めておくべき点です。

任せてはいけないところ

次の3つは、人と専門職が持ち続けます。

  • 個人結果の取り扱い。 個人の点数や判定は、実施者と本人の間で扱う情報です。AIにも、人事の権限を持つ人にも渡しません
  • 面接指導まわりの判断。 高ストレスと判定された人が面接指導を申し出たときの対応は、本人の意向と医師の見立てが関わります。AIには任せません【各自確認:面接指導の手続きは、厚生労働省のストレスチェック制度実施マニュアルで確認】
  • 結果の使い道の決定。 部署ごとの結果を職場の改善につなげるかどうか、何をするかは、経営と現場が決める仕事です。AIは報告文の下書きまでです

なお、AIが作る報告文は、数字を変えたり、原因を推測して書き足したりすることがあります。文例3のように「数字を変えない」と指示しても、送る前に数字を人が照合してください。

よくある質問

Q. 検査そのものは外部の会社に頼んでいます。AIで軽くできる事務は残っていますか。

残っています。外部の会社が検査と結果返却を行っていても、対象者の名簿の整理、案内の送付、未受検者への催促、社内報告は会社側の仕事であることが多いためです。委託契約の範囲によって違うため、契約書で確認してください【各自確認:自社の委託契約の範囲は、委託契約書で確認】。

Q. 未受検者への催促で、AIが強い言い回しの文面を作ったらどうなりますか。

文例2のように「不利益を示唆しない」「相談窓口を書く」と条件に入れます。それでも強く感じる文面が出たときは、担当者が手で直してから送ります。受検は本人の意思に関わる面があるため、催促は控えめな言い方が向いています【各自確認:受検の扱いは、厚生労働省のストレスチェック制度実施マニュアルで確認】。

Q. 部署ごとの結果を、AIに読ませて改善案を出させてもよいですか。

名前のない集計の数字だけを渡す範囲であれば、案の下書きを作らせることはできます。ただし10人未満の部署の数字は、個人が推測できるため入れません。AIの案は、実施者や産業医など専門職の意見を聞いたうえで、人が採否を決めます。

Q. 従業員が50人未満の会社でも、この仕組みは意味がありますか。

義務の有無は人数で変わります。50人未満の事業場は、2026年10月時点では努力義務です。2028年4月1日からは義務に変わります(厚生労働省「ストレスチェック制度・メンタルヘルス対策」のページ、令和8年政令第195号)。労働基準監督署への結果報告は、厚生労働省の「小規模事業場ストレスチェック制度実施マニュアル」(令和8年2月)で、50人以上の事業場に義務付けられ、50人未満は不要とされています。人数は、アルバイトやパートでも継続して雇い常態として使っていれば数える決まりです【各自確認:自社の事業場ごとの常時使用の人数が50人以上か。同マニュアルの「労働基準監督署への報告の要否の基準」で確認】。現在は義務の対象外でも、実施する場合の案内文・催促文・報告文の下書きは同じ方法で作れます。人数が少ないほど、個人が特定されやすくなるため、集計の扱いには特に注意してください。

Q. 産業医がいない会社は、どうすればよいですか。

実施者になれる職種は決まっています(医師、保健師、所定の研修を修了した歯科医師・看護師・精神保健福祉士・公認心理師。労働安全衛生規則52条の10第1項)。産業医がいない場合は、外部の健診機関や、地域の産業保健の支援機関に相談する方法があります【各自確認:地域の相談窓口は、労働者健康安全機構の公式ページで確認】。AIに実施者の代わりをさせることはできません。

理解度チェック

読んだ内容の確認に3問だけ。押すと答えが開きます。

Q1. AIに入れてよいのは、案内文の下書きや、名前を抜いた人数の集計までである。個人ごとの結果は入れない。

○ — 個人の結果は人事の権限を持つ人に見せられない情報のため、AIに入れる材料は案内文と名前を抜いた集計に絞ると本文で述べている。

Q2. 受検していない人に送る、催促の文面の下書きは、AIに任せやすい作業である。

○ — 未受検者への催促は、相手と期限を差し替えるだけの決まった文面づくりだと本文で述べている。

Q3. 高ストレスと判定された人への面接指導の対応は、AIに判断させてよい。

× — 面接指導まわりの判断は本人の意向と専門職の見立てが関わる領域で、人が担うと本文で述べている。

無料・3分

御社の仕事のうち、AIに渡せるものを診断します。

いくつかの質問に答えると、AIに任せられる仕事と減らせる時間の目安が出ます。運営: 市瀬 大義(福岡。前職で経営企画室長を経て、執行役員CFO)

無料のAI導入診断を受ける LINEで「相談」と送る
この記事の作り方: 下書きにAIを使い、制度・料金・ツールの仕様は公式ページに照らして事実確認したうえで公開しています。確認の取れない記述が残る記事は公開せず、一次資料が見つからない箇所は本文にそう書いています。運営は市瀬 大義(福岡。前職で経営企画室長を経て、執行役員CFO)です。誤りはLINEから知らせてください。