退職手続きのAI活用、書類作成で任せられる作業と減らせる時間

退職手続きの書類作成は、一般的な業務量から試算すると、退職者1人あたり約 2時間前後(110〜160分)かかる仕事です。このうちAIに任せられるのは、雇用 保険や社会保険の届出書類への転記、離職証明書の下書き、貸与品回収などの チェックリスト管理の3つです。離職理由の区分の選択、マイナンバーの取り扱い、 届出の実際の提出は、引き続き担当者が行います(離職理由の最終判定は ハローワークです)。同じ試算で、退職者1人あたり70〜105分前後の削減余地に なる計算です(後述の試算)。
退職手続きの書類作成は、何にいちばん時間を使っているか
退職者が出るたびに、総務・人事の担当者は複数の書類を並行して用意します。 時間がかかるのは主に次の工程です。
- 雇用保険被保険者資格喪失届への、退職者情報の転記
- 離職証明書(退職者に渡る離職票のもとになる書類)の作成。特に「具体的事情記載欄(事業主用)」の文面づくり
- 健康保険・厚生年金保険の資格喪失届への転記
- 源泉徴収票の作成に向けた、年間給与データの集計
- 貸与品(PC・社員証・鍵など)の回収状況や、社内アカウント停止の進捗管理
提出期限は、雇用保険の資格喪失届が「離職した翌々日から10日以内」 (厚生労働省「雇用保険被保険者離職証明書についての注意」)、健康保険・ 厚生年金保険の資格喪失届が「事実発生から5日以内」です(日本年金機構の 公式ページ)。
このうち転記・集計・進捗管理は、手順自体が毎回ほぼ同じです。一方で離職 理由の書き方や、退職に伴う金額の最終確認には判断が伴います。
AIに任せられる作業と、任せられない作業の切り分け
切り分けの基準は「本人や会社の法的な立場に影響する判断かどうか」です。
| 任せられる | 任せられない |
|---|---|
| 各種届出書類のフォーマットへの下書き転記 | 離職理由の区分(自己都合・会社都合など)の選択と、本人への確認 |
| 離職証明書の記載欄の文面下書き(事実関係の整理) | マイナンバーの確認・入力・管理 |
| 源泉徴収票用の年間給与データの集計 | 退職金・未払賃金の金額確定 |
| 貸与品回収・アカウント停止の進捗チェック | 届出書類の実際の提出(電子申請の実行) |
離職証明書の「具体的事情記載欄(事業主用)」は、本人への聞き取り内容をもとに 事実関係を整理する部分までAIに下書きさせられます。ただし離職理由の区分を 選ぶのは担当者の仕事です。厚生労働省は、離職理由が受給資格の有無、給付 日数、給付制限の有無に影響すると説明しています。
なお自己都合で正当な理由がない場合、給付制限期間は令和7年4月1日以降の 離職で原則1か月です(同3月31日以前は原則2か月。ハローワークの案内)。
退職手続きの書類作成をAIに任せると何時間減るか(試算)
退職者情報をもとに、各種届出書類やチェックリストの下書きをAIに作らせた 場合の試算です。
| 業務(退職者1人あたり) | いまの時間(目安) | AI活用後 | 差 |
|---|---|---|---|
| 雇用保険・社会保険の資格喪失届への転記 | 40〜60分 | 15〜20分 | 25〜40分 |
| 離職証明書の記載欄の文面下書き | 30〜40分 | 10〜15分 | 20〜25分 |
| 源泉徴収票用の年間給与データ集計 | 20〜30分 | 10分 | 10〜20分 |
| 貸与品回収・アカウント停止の進捗チェック | 20〜30分 | 5〜10分 | 15〜20分 |
| 合計 | 約110〜160分 | 約40〜55分 | 約70〜105分 |
前提:時間は、一般的な中小企業の業務量を想定したこのサイトの試算であり、 公的機関の統計ではありません。退職者1人あたりの目安で、退職者情報(氏名・ 入退社日・給与データなど)がすでに人事システムまたは表計算に入力済みで あることを条件としています。離職理由の区分の選択・退職金の金額確定に かかる時間は、判断を伴う作業のためこの試算に含めていません。
AIへの指示文の文例(離職証明書の記載欄下書き用)
本人への聞き取りメモをもとに、離職証明書の記載欄の文面を下書きさせる ときの指示文です。
以下は退職者への聞き取りメモです。このメモをもとに、離職証明書の
「具体的事情記載欄(事業主用)」に記載する文面の下書きを作成してください。
条件:
・メモに書かれている事実関係のみを使い、新しい事実を作らない
・退職理由の区分(自己都合・会社都合など)は判定せず、事実の記述にとどめる
・簡潔で客観的な文体にする
なお、退職者の氏名や個人番号など不要な個人情報は入力していません。
【聞き取りメモ】
(ここに聞き取り内容を貼り付ける)
出てきた下書きは、離職理由の区分を決める材料の一つとして使い、区分の選択と 記載内容の確定は担当者が行います。
導入前チェックリスト
退職手続きの書類作成にAIを使い始める前に、次の3点を確認します。
- □ 退職者の氏名・入退社日・給与データなどの基礎情報が、人事システムか 表計算にすでに入力されているか
- □ マイナンバーなど個人情報を、無料版のAIツールにそのまま貼っていないか (個人情報保護委員会は、入力した個人情報が機械学習に利用されることが あると注意喚起しています。サービスの設定を確認したうえで使う)
- □ AIが作成した下書きを、提出前に担当者が事実関係と照合する手順に なっているか
離職理由と個人情報は誰が確認するか
離職証明書の離職理由欄は、会社(事業主)が主張する離職理由を記載する欄です。 離職者本人は、会社が記載した内容に異議があるかどうかを確認欄に記入します。 そのうえで、最終的な判定はハローワークが行います(厚生労働省「雇用保険被保険者 離職証明書についての注意」。事業主か離職者のどちらか一方の主張だけで は判定しないと書かれています)。
会社側の記載は担当者が責任を持って行います。AIが作った下書きも、離職理由 の区分を決めた上での文面確認が必要です。
マイナンバー(個人番号)を含む個人情報は「特定個人情報」で、取得・利用・ 提供は番号法で限定的に定められています(個人情報保護委員会「はじめての マイナンバーガイドライン(事業者編)」令和7年4月版)。同委員会は2023年 6月の注意喚起で、個人データを生成AIに入力するときは、提供事業者が機械学習に 利用しないことなどを十分に確認するよう求めています。このサイトでは、無料版の AIツールへの直接入力を避けることを勧めます。管理は社内の専用システムや、 限られた担当者だけがアクセスできる方法で行います。届出書類の実際の提出 (ハローワークや年金事務所への電子申請の実行)も、AIの対象外として担当者が 行う業務です。
よくある質問
Q. 離職理由が自己都合か会社都合かの判定もAIに任せられますか。
任せられません。離職理由は失業給付の受給資格や給付制限に影響します。事実 関係の整理まではAIに下書きさせられますが、会社側の区分は担当者が選びます。 最終的な判定はハローワークが行います。
Q. 退職者のマイナンバーをAIに入力してよいですか。
マイナンバーを含む個人情報は特定個人情報で、取得・利用・提供は番号法で 限定されています。このサイトでは、無料版のAIツールへの直接入力を避けること を勧めます。管理は専用の方法で行います。
Q. 届出書類の提出(電子申請)そのものもAIにできますか。
できません。AIに任せられるのは書類の下書き作成までです。ハローワークや 年金事務所への実際の提出手続きは、引き続き担当者が行います。
Q. 社会保険労務士に依頼している業務は、AI活用でどう変わりますか。
社会保険労務士に依頼している届出の代行や判断業務は変わりません。AIが 担うのは、社内で用意する下書き資料の作成部分です。
Q. 退職者が少ない会社でも導入する意味はありますか。
退職者が年に数名程度であれば、AIを使わなくても手作業で十分対応できる 場合があります。退職者が多く、担当者が転記・集計に時間を取られている 会社ほど、削減の効果は大きくなります。
自社の退職者数をもとに、退職手続きの書類作成で何時間減らせるかは、無料 のAI業務診断で概算できます。
読んだ内容の確認に3問だけ。押すと答えが開きます。
Q1. 離職理由が自己都合か会社都合かの最終判定は、AIではなく担当者が行う。
○ — 離職理由の判定は争いの種になりうるため、AIに任せず担当者が確認すると本文で述べた。
Q2. 退職者のマイナンバーは、無料版のAIツールに直接入力してよい。
× — マイナンバーは特定個人情報として扱いが定められており、AIツールへの直接入力は避けるべきだと本文で述べた。
Q3. 各種届出書類の下書き転記やチェックリストの進捗管理は、AIに任せやすい業務である。
○ — 判断を伴わない転記・進捗管理はAIに向いていると本文で説明した。
御社の仕事のうち、AIに渡せるものを診断します。
いくつかの質問に答えると、AIに任せられる仕事と減らせる時間の目安が出ます。運営: 市瀬 大義(福岡。前職で経営企画室長を経て、執行役員CFO)
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