退職者の業務引き継ぎ資料をAIで作る

退職者が出るとき、引き継ぎ資料は何日前から作り始めればよいのか。 答えは「退職が決まった週に、業務の一覧づくりから」です。 AIで短くなるのは、聞いた内容を手順書の形に直す時間です。本人から話を聞く時間は縮みません。 担当20業務の引き継ぎで、約49時間が約25時間になる計算です(後述の試算)。 内容が正しいかの確認だけは、AIを使うと逆に増えます。
引き継ぎ資料の、どこまでをAIに任せられるのか
引き継ぎ資料には、業務の一覧、手順書、取引先ごとの注意点の3つが要ります。 このうち、話した内容を整理して文章の形にする部分をAIが担えます。 判断の理由や例外の線引きは、人が持ちます。
| 作業 | AIに任せられるか | 理由 |
|---|---|---|
| 業務の一覧づくり | 下書きまで | 本人の話や予定表から拾えるが、抜けは本人が気づく |
| 話した内容を手順書の形に直す | 任せられる | 文章の整理はAIの得意な作業 |
| 取引先ごとの連絡先・注意点の整理 | 任せられる | 本人と後任が最後に確認する |
| 「なぜその手順なのか」を聞き出す | 人がやる | 聞かないと出てこない話がある |
| 例外対応の線引き(この金額を超えたら上に相談、など) | 人が決める | 会社の判断であり、AIの推測で決めない |
| パスワード・ログイン情報 | 任せない | 資料にもAIにも入れない |
| 資料が正しいかの確認 | 人がやる | 間違っていても整った文章になるため |
引き継ぎで抜けやすいのは、毎日の業務ではありません。 年に数回しか起きない業務と、「いつもやっているので書くまでもない」と本人が思っている手順です。 一覧づくりの段階で、この2種類を意識して聞き出します。
退職者1人分の引き継ぎ資料は、何時間が何時間になるのか(計算例)
前提を置いた計算例です。従業員50名の会社で、退職者1名の担当が週次・月次・不定期を合わせて20業務ある場合で試算しています。
| 作業 | いまの時間 | AI化後 | 差 |
|---|---|---|---|
| 業務の一覧づくり | 6時間 | 2時間 | 4時間減 |
| 手順書20本の作成 | 30時間 | 12時間 | 18時間減 |
| 取引先・関係者ごとの注意点の整理 | 5時間 | 2時間 | 3時間減 |
| 抜け漏れの洗い出しと、回答の反映 | 4時間 | 3時間 | 1時間減 |
| 内容の確認(退職者と後任の読み合わせ) | 4時間 | 6時間 | 2時間増 |
| 合計 | 49時間 | 25時間 | 24時間減 |
試算の前提は次のとおりです。
- 数字は実測ではなく、一般的な業務量から置いた仮定です
- 手順書は1本あたり、いまは書くのに1.5時間、AI活用後は聞き取りを含めて0.6時間と置いています(読み合わせの確認は表の別の行です)
- 時間は退職者・後任・上司の作業を合算したものです
- 人件費を1時間3,000円と置くと、24時間の差は72,000円の計算です(自社の単価に置き換えてください)
確認の時間が2時間増えるのは、AIの下書きを本人と後任が1本ずつ読み合わせるためです。 この時間を削ると、間違った手順書がそのまま後任に渡ります。
引き継ぎ資料をAIで作る手順(5ステップ)
最終出社日までが1か月の場合の進め方です。
- 退職が決まった週に、退職者と日程を決める。 聞き取りは1回60分を数回に分けます。1回で全部は聞けません
- 業務の一覧を作る。 本人に思いつく業務を話してもらい、予定表・共有フォルダのフォルダ名・送信済みメールの件名一覧と突き合わせます。AIに渡すのは件名の一覧までにして、メールの本文は渡しません
- 業務ごとに話してもらい、文字にする。 話した内容を録音して文字にするか、聞き手がメモを取ります。音声を文字にする機能は、使っている会議ツールやAIツールで有無が違います【各自確認:契約中のツールの公式ヘルプで確認】
- 文字にした内容を、AIに手順書の形へ直させる。 次の章の指示文を使います
- 退職者と後任が読み合わせ、後任が退職者のいる間に1回やってみる。 実際にやると、書かれていない前提が見つかります
AIの下書きを本人が読んで直す作業は、手順書の品質を決める工程です。 最終出社日の直前に回すと、直す時間がなくなります。
AIへの指示文の文例(業務一覧・手順書・抜け漏れ)
そのままコピーして使えます。取引先名や個人名は、貼る前に「A社」「担当者B」のような記号に置き換えます。
文例1: 話した内容から、業務の一覧を作る
聞き取りの文字起こしを渡して、業務の表を作らせる指示です。
以下は、退職する担当者が話した内容の文字起こしです。
この人が担当している業務を、表にしてください。
列は「業務名」「頻度(毎日・毎週・毎月・不定期)」「相手(社内の部署名、取引先はA社などの記号)」「使う道具や場所」「話の中で分かった期限」です。
話の中に出てこない項目は、推測せず「不明」と書いてください。
最後に、業務として成り立っているか分からない曖昧な言及を、別の一覧にしてください。
【文字起こし】
(ここに貼る)
「(ここに貼る)」を、聞き取りの文字起こしに置き換えます。 「不明」が多い行は、次の聞き取りで本人に聞く行です。
文例2: 業務1つ分の手順書の下書きを作る
1つの業務の話から、手順書の形に整えさせる指示です。
次の文字起こしから、「◯◯業務」の手順書の下書きを作ってください。
・手順は番号をつけ、1つの手順は1文にする
・「いつ」「誰に」「何を使って」が話にない手順は、末尾に「要確認」と付ける
・例外の対応は、手順の後ろに「例外」として別に書く
・話にない内容を足さない。分からない点は最後に質問として並べる
・パスワードやログインIDは書かない
【文字起こし】
(ここに貼る)
「◯◯業務」を実際の業務名に置き換えます。 「要確認」が付いた手順は、退職者に確認してもらいます。
文例3: 後任がつまずく点を、質問の形で出させる
できあがった手順書の穴を、後任の目で探させる指示です。
次の手順書は、退職する担当者の業務の引き継ぎ用です。
この業務を初めてやる後任の担当者が、つまずきそうな点や、書かれていない前提を10個、質問の形で出してください。
質問は「相手は誰か」「期限はいつか」「間違えたらどうなるか」「他の業務との関係」の4つの観点で分けてください。
【手順書】
(ここに貼る)
出てきた質問のうち、退職者だけが答えられるものを、最終出社日の前に本人へ聞きます。 退職後に気づいた疑問は、聞ける相手がいません。
引き継ぎ資料づくりを始める前のチェックリスト
始める前に、次の7つを確認します。社内で共有する場合は、このまま印刷して使えます。
□ AIに入れる情報の範囲を決めた(取引先名・個人名は記号にする) □ 使うAIツールで、入力した内容が学習に使われる設定になっていないか、管理画面で確認した【各自確認:ツールごとの公式ヘルプで確認】 □ 録音する場合、目的と保存する期間を退職者に伝え、同意を取った □ 聞き取りの日程(1回60分を何回か)を、退職者と後任の予定表に入れた □ パスワード・ログイン情報は、資料とは別の管理方法で渡すと決めた □ 後任が退職者のいる間に1回やってみる日を決めた □ 資料の置き場所と、あとで直す担当者を決めた
AIに任せてはいけない部分と、入れてはいけない情報
任せてはいけないこと
- 例外対応の線引き。「この金額を超えたら部長に相談」のような線は、会社が決めます
- 取引先との関係の細かい事情。「この担当者には先に電話で一報を入れる」のような話は、本人から聞き出して人が書きます
- 内容が正しいかの最終確認
AIは、話にない手順を、もっともらしく補って書くことがあります。 文例2で「話にない内容を足さない」と指定するのはこのためです。 それでも足されることがあるので、確認は省きません。
入れてはいけない情報
- パスワード、ログインID、認証コード
- 取引先や社員の個人情報(氏名・連絡先・住所)
- 退職の理由、人事評価、本人の事情に触れる話
これらは、AIにも手順書の本文にも入れません。 パスワード類は、会社が決めた管理方法で別に渡します。 手順書には「ログイン情報は、管理表の◯◯を見る」とだけ書きます。
よくある質問
退職者が資料づくりに協力してくれない場合は、どうすればよいですか。
本人の話が聞けないと、AIに渡す材料がありません。 その場合は、上司・同じ業務を見ていた同僚・取引先への確認と、共有フォルダやメールの件名一覧から、分かる範囲を組み立てます。 組み立てた内容は推測を含むため、資料に「本人未確認」と書いておきます。
引き継ぎ資料には、最低限どこまで入れれば足りますか。
最低限は、次の4つです。
- 定期業務の一覧(頻度と期限つき)
- 業務ごとの手順
- 取引先や社内の関係者ごとの連絡先と注意点
- 使っている道具と、書類やデータの保管場所
まず定期業務の一覧を作り、期限が近い業務から手順書にします。
退職者の話を録音して、AIで文字にしてよいですか。
録音する目的と保存期間を本人に伝え、同意を取ってから行います。 社内規程や法律上の扱いは会社ごとに違うため、始める前に確認します。【各自確認:社内規程と法律上の扱いは、社会保険労務士または弁護士に確認】
退職者のメールを、AIに読ませて業務を拾ってよいですか。
このサイトでは、本文は渡さず、件名の一覧までにすることを勧めています。 会社のメールでも、私的な内容や第三者の個人情報が混ざるためです。 読ませる範囲と目的は、社内で決めて本人にも知らせます。【各自確認:社内規程と、社会保険労務士など専門家の見解で確認】
無料版のAIで、引き継ぎ資料は作れますか。
作ること自体はできます。 ただし、入力した内容が学習に使われる設定の場合があるため、取引先の情報を入れる前に設定を確認します。 記号に置き換えてから貼る運用なら、リスクは下がります。【各自確認:利用中のAIツールの公式ヘルプで、入力内容の学習利用の有無と設定方法を確認】
読んだ内容の確認に3問だけ。押すと答えが開きます。
Q1. AIが作った手順書の下書きは、退職する本人に読んでもらい、直してもらうのがよい。
○ — 本人しか知らない例外や前提がAIの下書きには載らないため、本人の確認が要ると本文で述べている。
Q2. パスワードやログインIDは、手順書の本文に書いて、AIに整理させてよい。
× — パスワード類は資料に書かず、別の管理方法で渡すと本文で述べている。
Q3. AIを使うと、退職者から話を聞く時間も大きく短くなる。
× — 短くなるのは聞いた内容を手順書の形に直す時間で、聞き取りの時間は縮まないと本文で述べている。
御社の仕事のうち、AIに渡せるものを診断します。
いくつかの質問に答えると、AIに任せられる仕事と減らせる時間の目安が出ます。運営: 市瀬 大義(福岡。前職で経営企画室長を経て、執行役員CFO)
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