安全衛生委員会の資料作成をAIで減らす

安全衛生委員会の資料づくりは、AIに任せてよい部分がはっきり分かれています。 任せてよいのは、報告の集計、議題の下書き、議事録の下書きの3つです。 これで1回あたり約5.9時間の作業が、約3.2時間になる計算です(後述の試算)。 対策を決める判断と、健康に関わる情報の扱いは、人の仕事のまま残ります。
安全衛生委員会の資料は、AIにどこまで任せられるのか
毎月の委員会の準備は、担当者が一人で抱えていることが多い仕事です(補足: 厚生労働省・産業保健総合支援センターの公表資料を探しましたが、資料作成を担当者1人で担う事業場の割合を示した統計は見つかりませんでした。以下は、この記事の試算の前提です)。 現場から集まった報告を読み、表にまとめ、議題を並べ、終われば議事録を書きます。 内容は毎月ほぼ同じ形で、AIが得意な「決まった形の整理」にあたります。
AIに任せやすいのは、次の4つです。
- ヒヤリとした・ハッとした出来事(ヒヤリハット)の報告の分類と一覧表づくり
- 職場を見回ったときのメモを、報告の文章に整えること
- 議題の説明文と、今月の安全の話題の案づくり
- 会議のメモからの議事録の下書き
AIに向かないのは、次の3つです。
- 原因の特定と、再発を防ぐ対策の決定
- 従業員の健康診断の結果や、産業医の意見の扱い
- 法令に合っているかどうかの最終判断
AIは、渡された材料の範囲でしか書けません。現場の様子を見ていないので、原因を推測で書きます。 推測が混ざった原因分析を、そのまま資料に載せてはいけません。ここが一番大事な線です。
毎月の資料づくりは何時間減るのか(試算)
従業員50名前後の会社で、担当者1人が毎月1回の委員会を準備する場合で試算します。 毎月のヒヤリハット報告が10件前後、職場巡視のメモが1回分、という想定です。
| 作業 | いまの時間 | AI化後 | 差 |
|---|---|---|---|
| 議題と、前回の宿題の洗い出し | 30分 | 15分 | 15分減 |
| ヒヤリハット報告の分類・一覧表づくり | 60分 | 25分 | 35分減 |
| 職場巡視メモの報告文づくり | 40分 | 15分 | 25分減 |
| 議題の説明資料(A4で1〜2枚) | 90分 | 45分 | 45分減 |
| 今月の安全の話題の案づくり | 45分 | 20分 | 25分減 |
| 議事録づくり | 60分 | 25分 | 35分減 |
| 件数・日付の突き合わせと点検(人が担当) | 30分 | 45分 | 15分増 |
| 合計 | 355分(約5.9時間) | 190分(約3.2時間) | 165分(約2.8時間)減 |
試算の前提は次のとおりです。
- 担当者は総務の1人。安全衛生の実務は数年の経験がある
- 報告は、紙やメールで届いたものを人が文字にして、AIへ渡す
- AIの下書きは、そのまま使わず必ず人が直す
- 時給は3,000円と仮定すると、1回で約8,250円分、年12回で約33時間・約9.9万円分の時間が空く
数字はいずれも、一般的な業務量からの試算です。実測ではありません。 最後の行のとおり、点検の時間は15分増えます。AIの文章を確かめる作業が新しく生まれるからです。 それでも全体では、1回あたり約2.8時間が空きます。
どの順番でAIに頼めば、毎月の資料が回るのか
一度に全部を頼むと、どれも薄くなります。次の順に、1つずつ頼みます。
手順1:材料を集めて、個人が分かる部分を外す(人・約20分)
報告のメモ、職場巡視のメモ、前回の議事録を1か所に集めます。 社員の名前は「作業者A」「担当者」のように置き換えます。場所と日時は残します。
手順2:報告を分類させ、一覧表にする(AI)
「転倒」「挟まれ」「置き場」など、種類ごとに分けさせます。 人は、分類が現場の実感と合っているかを見ます。件数は必ず数え直します。
手順3:議題と説明資料の下書きをさせる(AI)
一覧表と前回の宿題を渡し、今月の議題の案を出させます。 案は、多めに出させて、人が選びます。
手順4:原因と対策を、人が書く
ここはAIに書かせません。現場の責任者に聞き、担当者が決めます。 AIの対策案は、思いつかなかった選択肢を探すときだけ使います。
手順5:会議のあと、議事録の下書きをさせる(AI)
会議中の担当者のメモを渡します。決定事項と担当者は、人が元のメモと見比べて直します。
委員会の資料づくりで使える指示文の文例
ここでは3本を示します。角かっこ【 】の部分を、自社の内容に置き換えて使います。 AIに渡す材料には、実在の社員名・取引先名・連絡先を入れません。
文例1:ヒヤリハット報告の分類と一覧表
何に使うか:毎月の報告を、種類ごとの一覧表にするときに使います。
次のヒヤリハット報告を、種類ごとに分類して表にしてください。
表の列は「種類」「発生した場所」「内容(1行)」「件数」です。
種類は「転倒」「挟まれ」「運搬中の事故」「置き場・通路」「その他」から選んでください。
報告の内容にないことは、推測で書かないでください。
原因は書かず、書かれている事実だけを整理してください。
【報告の一覧を貼る】
置き換えるのは、貼り付ける報告の一覧です。種類の選択肢は、自社の現場に合わせて変えます。 「原因は書かない」の1文は消さずに残します。推測の混入を防ぐ要になります。
文例2:議題の説明資料の下書き
何に使うか:今月の議題を、A4で1〜2枚の説明資料にするときに使います。
安全衛生委員会で使う、今月の議題の説明資料の下書きを作ってください。
読む人は、現場の責任者と、部署から出ている委員です。
専門用語は使わず、使う場合は最初に日常の言葉で言い換えてください。
構成は次の順にしてください。
1. 今月の状況(先月との比較を1〜2行)
2. 気になる点(3つまで)
3. 委員会で決めてほしいこと(2つまで)
数字は、下の材料にあるものだけを使ってください。
原因と対策は、「【担当者が記入】」と書いて空けておいてください。
【今月の一覧表と、前回の宿題を貼る】
置き換えるのは、貼り付ける材料です。原因と対策を空けさせる指示が、作り話を防ぎます。
文例3:議事録の下書き
何に使うか:会議のあとに、担当者のメモを議事録の形にするときに使います。
次のメモから、安全衛生委員会の議事録の下書きを作ってください。
形式は「議題」「話し合った内容」「決まったこと」「担当者と期限」の順です。
メモに書かれていない決定や期限は、作らないでください。
分からない点は、最後に「確認したい点」として並べてください。
【会議のメモを貼る】
置き換えるのは、貼り付けるメモです。「確認したい点」を出させると、人が抜けを見つけやすくなります。
AIに任せてはいけない部分はどこか
次の部分は、人が書き、人が決めます。
| 部分 | 理由 |
|---|---|
| 事故やヒヤリハットの原因の特定 | AIは現場を見ていない。推測が事実のように書かれる |
| 再発を防ぐ対策の決定 | 実行する責任は会社にあり、現場の事情を知る人が決める |
| 健康診断の結果、産業医の意見の扱い | 従業員の健康に関わる情報。AIに入力しない |
| 法令に合っているかの判断 | 誤りが許されない。公式の資料で確認する【各自確認:自社の運用が労働安全衛生法と関係規則に合っているか。厚生労働省の公式サイトで最新の条文を確認】 |
| 労働基準監督署への報告の要否 | 会社の責任で判断する。専門家や窓口に確認する |
委員会の設置が必要な事業場の規模、開催の頻度、議事録の保存期間は、法令で決まっています。 厚生労働省の「労働基準関係のよくある質問」(https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/koyou_roudou/roudoukijun/faq/1.html)は、次のように示しています。 根拠は労働安全衛生法第18条と労働安全衛生規則第23条です(2026年10月に確認)。
- 衛生委員会は、業種を問わず、労働者数が50人以上の事業場で設置が必要です
- 安全委員会は、業種により、50人以上または100人以上の事業場で必要です。対象にならない業種もあります
- 両方が必要な事業場は、安全衛生委員会を1つ置くことで足ります
- 委員会は、毎月1回以上開催します
- 委員会の意見と講じた措置、議事で重要な事項は、開催のたびに記録し、3年間保存します
自社が対象かどうかは、業種と労働者数で決まります【各自確認:自社の業種が安全委員会の対象か。厚生労働省の公式資料か所轄の労働基準監督署で確認】。
使う前のチェックリストと個人情報の扱い
AIに材料を渡す前に、次を確かめます。
□ 実在の社員名、取引先名、連絡先を材料から外した □ 健康診断の結果や、産業医の意見を材料に入れていない □ 使うAIツールで、入力した内容が学習に使われない設定になっているか確認した(【各自確認:利用中のツールが入力を学習に使うか。ツールの設定画面と公式ヘルプの『データの利用』の項で確認】) □ 原因と対策を書く部分は、空欄で残させる指示を入れた
AIが下書きを返したら、会議に出す前に次を確かめます。
□ 件数を、元の報告と数え直して一致させた □ 日付・場所・部署の名前を、元のメモと見比べた □ 原因の部分に、AIの推測が混ざっていない □ 決定事項と担当者を、会議のメモと見比べた
1つでも□が埋まらなければ、その資料は会議に出しません。
よくある質問
従業員が少なく、委員会を置いていない会社でも使えますか。
使えます。委員会の形でなくても、現場の報告を集めて話し合う場があれば、同じ手順で資料を作れます。 労働者数が50人未満の事業場には、安全委員会・衛生委員会の設置義務はありません。 ただし、安全や衛生に関する事項について、関係する労働者の意見を聴く機会を設けることが求められます(厚生労働省の上記ページ、労働安全衛生規則第23条の2)。 自社の事業場が設置義務の対象かどうかは、労働者数と業種で決まります【各自確認:自社の事業場の労働者数と業種が設置義務の区分に当たるか。厚生労働省の公式資料で確認】。
ヒヤリハットの報告が現場から上がってこないときも、AIは役に立ちますか。
報告の書式づくりで役立ちます。「いつ・どこで・何が起きたか」の3項目だけの短い書式をAIに作らせ、 現場の責任者に見てもらって直します。書式が短いほど、報告は出しやすくなります。 ただし、報告が出ない理由が忙しさにあるのか、出しにくい雰囲気にあるのかは、人が現場に聞かないと分かりません。
全国の労働災害の件数を、AIに調べさせて資料に入れてよいですか。
AIが答える数字は、そのまま使えません。AIは出典を確かめずに、もっともらしい数字を書くことがあります。 数字を入れたいときは、厚生労働省などの公式な公表資料を人が開き、出典と時点を書いて引用します。
会議を録音して、文字起こしを議事録に使ってもよいですか。
技術的には可能です。ただし、発言者の声を録音することになります。 社内の規程や、参加者への事前の説明が必要かどうかは、会社ごとに違います【各自確認:録音と文字起こしに必要な手続き。自社の個人情報の取り扱い規程を総務・法務の担当に確認】。 決まりがないうちは、担当者の手書きメモを材料にする方法が、安全です。
無料のAIツールで作っても問題ありませんか。
材料から個人名と健康情報を外している限り、下書きづくりに使えます。 入力した内容が学習に使われるかどうかは、ツールごとに違います。使う前に設定画面と規約を確認してください【各自確認:利用中のツールが入力を学習に使うか。ツールの利用規約と設定画面で確認】。
読んだ内容の確認に3問だけ。押すと答えが開きます。
Q1. ヒヤリハットの報告をAIに集計させるときは、実在の社員名を「Aさん」や「作業者」に置き換えて渡す。
○ — 個人名はAIに入力せず、置き換えてから渡すと本文で述べている。
Q2. 再発を防ぐ対策は、AIが出した案をそのまま採用してよい。
× — 対策を決めるのは人で、AIの案は選択肢のひとつとして使うと本文で述べている。
Q3. AIが作った議事録の下書きでも、決定事項と担当者は人が元のメモと見比べて確かめる。
○ — 決定事項と担当者は、議事録の中で誤りが許されない部分だと本文で述べている。
御社の仕事のうち、AIに渡せるものを診断します。
いくつかの質問に答えると、AIに任せられる仕事と減らせる時間の目安が出ます。運営: 市瀬 大義(福岡。前職で経営企画室長を経て、執行役員CFO)
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