AIツールのアカウント管理|会社名義・台帳・退職時の停止チェックリスト

複数のAIツールを使い始めた会社で、最初に困るのは「誰がどのアカウントで何を使っているか」が分からなくなることです。 決めることは3つだけです。契約は会社の名義にする。使う人と用途を1枚の台帳に書く。退職・異動の日にやることを固定する。 この3つで、AIツールの管理に取られる時間は、5種類・20人規模の想定で月13時間から4時間に減る計算になります(後述の試算)。 パスワードそのものは台帳に書かず、別の保管場所に分けます。
アカウント管理で、最初に決めることは何か
最初は1人の実験でも、半年後には部署ごとに別のツールが動いています。
このとき困るのは、次の3つが同時に起きるからです。
- 誰が使っているか分からず、辞めた人のアカウントが残る
- 同じツールを複数の人が別々に契約し、支払いが重なる
- 入力してはいけない情報を入れていないか、確認する手がかりがない
原因は、ツールの数ではなく、全体を見る1枚の表が無いことです。 先に表と担当を決めれば、ツールが増えても管理の手間は比例して増えません。
AIツールの契約は、個人名義と会社名義のどちらにするか
会社名義にします。理由は、個人名義だと会社の手から離れる場面があるからです。
| 状況 | 個人名義で契約した場合 | 会社名義で契約した場合 |
|---|---|---|
| 担当者が退職した | 個人のメールアドレスに紐づいたまま。会社は入れない | 管理者が引き継ぎ・停止できる |
| 支払いの確認 | 立替精算になり、契約の存在が経理に見えにくい | 会社のカード・請求書で一覧できる |
| 入力内容の扱い | 個人の設定に任される | 会社として設定を揃えられる |
| 問題が起きたとき | 会社から契約元へ問い合わせにくい | 会社として問い合わせられる |
会社名義にするときの実務は次の順です。
- 会社の共用メールアドレスを1つ用意する(特定の個人の名前を含めない)
- 契約者・請求先をその共用アドレスと会社名義にする
- 実際に使う人には、各自のIDを別に発行する
「全員で1つのIDを使い回す」のは避けます。誰が何を入力したか追えず、1人辞めるたびに全員のパスワードを変える羽目になります。 IPA(情報処理推進機構)の「組織における内部不正防止ガイドライン」(第5版・2022年4月)も、共有のIDやパスワードを使わず、個々の利用者IDを個別のパスワードなどで認証するよう定めています(4-2-2(7))。
ツールごとに、入力した内容が学習に使われるかどうかの設定は違います。プランによっても違うため、契約前に確認します。【各自確認:契約予定のAIツールが入力内容を学習に使うか。各ツールの公式規約・ヘルプの「データの利用」の項でプランごとに確認】
台帳には何を書くのか
台帳は、表計算ソフトの1枚のシートで足ります。専用の道具は要りません。 IPAの「中小企業の情報セキュリティ対策ガイドライン」第4.0版(2026年3月27日公開)にも、付録6「資産管理台帳(サンプル)」があります(IPA公式ページで確認)。 書く項目は次の7つです(この7項目はこのサイトの案で、IPAの様式そのものではありません)。
| 項目 | 書く内容 | 記入例 |
|---|---|---|
| ツール名 | 使っているAIツールの名前 | 文章作成用AI |
| 用途 | 何の業務に使うか | 問い合わせ返信の下書き |
| 契約者 | 契約している名義 | 会社名義(共用アドレス) |
| 管理担当 | 台帳を更新する人 | 総務の担当者 |
| 利用者 | 使っている人と部署 | 営業部の3人 |
| 入力してよい情報 | 使ってよい範囲 | 公開済みの情報のみ |
| 見直し日 | 次に確認する日 | 3か月後 |
パスワードは台帳に書きません。 シートは共有範囲が広がりやすく、見られる人が増えるほど危険が増えるためです。 パスワードは、次の章のとおり別の場所に置きます。
管理の手間は月何時間減るのか(試算)
台帳と手順を作る前と後で、月あたりの管理時間を比べます。
| 管理の仕事 | いまの時間(月) | 台帳・手順ができた後 | 差 |
|---|---|---|---|
| 誰がどのツールを使っているかの確認 | 3時間 | 0.5時間 | 2.5時間 |
| 退職・異動時のアカウント停止 | 2時間 | 0.5時間 | 1.5時間 |
| カード明細から契約を探す突き合わせ | 2時間 | 0.5時間 | 1.5時間 |
| ログイン不具合・再設定の問い合わせ | 4時間 | 1.5時間 | 2.5時間 |
| 新しく使い始めるときの申請と確認 | 2時間 | 1時間 | 1時間 |
| 合計 | 13時間 | 4時間 | 9時間 |
前提は次のとおりです。従業員50人、AIツール5種類、実際に使う人は20人、月に退職・異動が1人、担当者の時給を3,000円としています。 9時間×3,000円で、月27,000円、年でおよそ32万円分の時間になります。 数字は一般的な事務作業の量から置いた目安で、実測ではありません。 自社の人数とツール数に合わせて置き換えてください。
この試算は、AIそのものが業務を減らす話ではありません。AIを使い始めると増える管理の手間を、先に仕組みで抑える話です。
退職・異動のときは何を確認するのか(チェックリスト)
退職や異動は、アカウントが残りやすい場面です。当日にやることを固定します。 IPAの「組織における内部不正防止ガイドライン」(第5版)も、異動・退職で不要になった利用者IDとアクセス権は「ただちに削除しなければならない」と定めています(4-2-2(5))。 台帳を見ながら、次の項目を上から順に確認します。
□ 台帳で、その人が使っているAIツールをすべて洗い出した(本人の記憶だけに頼らない) □ 各ツールで、その人のIDを停止または削除した □ その人が作った資料・指示文・履歴のうち、会社に残すものを共用の場所へ移した □ 共用IDを使っていた場合は、パスワードを変更した □ スマホやパソコンに、そのツールのログイン状態が残っていないか確認した □ 台帳の利用者欄を更新し、更新日を書いた □ 外部の顧客情報や契約書を入れていなかったか、管理担当が確認した
台帳が無いと、1行目の洗い出しで時間が溶けます。 本人が使っていたツールを全部覚えているとは限りません。聞き取りだけでは漏れが出ます。
パスワードと本人確認は、どう守るのか
台帳とは別に、次の3つを決めます。
- パスワードの保管: パスワードを安全にしまい、必要な人にだけ見せる専用の道具を使う(料金は【各自確認:利用を検討しているパスワード管理サービスの公式サイトで、現在の料金プランを確認】)
- 本人確認の二重化: パスワードに加えて、スマホでの確認を求める設定(多要素認証)を、設定できるツールではオンにする
- 使い回しの禁止: 複数のツールで同じパスワードを使わない
専用の道具を入れられない場合でも、台帳とパスワードを別の場所に置く。ここだけは崩しません。 付箋、共有シート、チャットの書き込みにパスワードを残さないことが、最低限の線です。
台帳づくりをAIに手伝わせる指示文の文例
台帳の下書きは、AIに作らせると早く終わります。ただし、パスワードや顧客の個人情報はAIに入力しません。 ツールの名前と用途だけを渡します。
下の文例を、そのまま貼って使えます。
以下のAIツールの一覧から、社内のアカウント管理台帳の下書きを作ってください。
# 条件
- 列は「ツール名・用途・契約者・管理担当・利用者・入力してよい情報・見直し日」
- 契約者・管理担当・利用者・見直し日は空欄のままにする
- パスワードやIDの列は作らない
- 用途から見て、入力してはいけない情報の例を「入力してよい情報」の列に1つずつ入れる
# ツールの一覧
- ○○(用途:△△)
- ○○(用途:△△)
「○○」と「△△」を、自社のツール名と用途に置き換えます。 AIが埋めた「入力してよい情報」は、そのまま採用せず、管理担当が自社の決まりに合わせて直します。
よくある質問
従業員10人ほどの会社でも、台帳は必要ですか
必要ですが、1枚のシートで足ります。10人規模でも、退職者のアカウントが残る問題は同じように起きます。 最初は「ツール名・使う人・契約者」の3列だけで始め、足りなくなったら増やします。
社員が無料版を自分の判断で使っていた場合、どうしますか
まず禁止するより、申告してもらいます。使っているツールと用途を台帳に載せ、入力してよい範囲を決めます。 会社として続けるなら会社名義の契約に切り替え、やめるなら利用をやめてもらいます。
共用のIDを1つ作って、みんなで使ってはだめですか
避けます。誰が入力したかが追えず、1人辞めるたびに全員へパスワードを配り直すことになります。 契約は会社名義で1つ、使う人のIDは1人ずつ発行するのが基本です。
台帳は誰が更新するのですか
管理担当を1人決め、副担当も置きます。担当が1人だと、その人が休んだ日に更新が止まります。 退職・異動の連絡が管理担当へ届く道筋を、人事や総務の手順に入れておくと漏れません。
台帳の見直しは、どのくらいの頻度でしますか
台帳の「見直し日」の欄どおり、3か月に1回を目安にします(公的な定めはなく、このサイトの目安です)。 新しいAIツールが増えやすい時期は、頻度を上げても構いません。【各自確認:自社に情報管理規程がある場合、その規程内の見直し周期の定めと照らして合わせる】
次の一歩
読んだ内容の確認に3問だけ。押すと答えが開きます。
Q1. AIツールの契約は、担当者個人の名義ではなく会社の名義にしておくと、退職時の引き継ぎがしやすい。
○ — 個人名義だと、その人の退職や異動でアカウントが会社の手から離れてしまう(本文参照)。
Q2. アカウントの台帳には、パスワードそのものを書き込んでおくのがよい。
× — 台帳に書くのは誰がどのツールを使うかまでで、パスワードは専用の保管場所に分ける(本文参照)。
Q3. 台帳が無くても、退職する本人に聞けば使っていたAIツールを漏れなく洗い出せる。
× — 本人が使っていたツールを全部覚えているとは限らず、聞き取りだけでは漏れが出る(本文参照)。
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いくつかの質問に答えると、AIに任せられる仕事と減らせる時間の目安が出ます。運営: 市瀬 大義(福岡。前職で経営企画室長を経て、執行役員CFO)
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