業務別AI活用の完全地図|どの業務から始めるかが1本で分かる

AI化に向いているかどうかは、業務の種類より「型」で決まる
社員10名規模の会社で、経理・総務・営業・人事の型が決まった作業をAIに任せると、 一般的な業務量から試算して月27時間ほどの余地があります。 中身は「転記」「照合」「下書き作成」の3種類で、業種を問わず共通しています。
一方、値引きや与信の判断、人事評価、クレーム対応の初動のように 「正解が人によって違う」業務は任せられません。この記事では、 経理・総務・営業・人事のそれぞれで何が空くかを数字つきで示し、 最後にどの業務から着手すべきかをまとめます。
部門名だけで向き不向きは決まりません。同じ経理業務でも、 仕訳入力は向いていて、資金繰りの判断は向いていません。判定の基準は3つです。
- 手順が決まっている:誰がやっても同じ流れになる作業か
- 正解となる過去データがある:過去のメール・見積書・議事録など、参照できる実例が社内に残っているか
- 間違えてもすぐ直せる:出力を人が確認してから使う工程があるか
この3条件を5つのチェック項目に分解すると、次のように仕分けられます。
| チェック項目 | はい=AI化向き |
|---|---|
| 毎回ほぼ同じ手順で行っているか | 型が決まっている |
| 過去の実例が社内に残っているか | 参照できる材料がある |
| 出力を人が確認してから使う工程があるか | 確認工程がある |
| 間違えた場合、その場で気づいて直せるか | 直しやすい |
| 最終判断の責任者が明確に決まっているか | 決まっている(AIは材料作りだけ担当) |
5項目中4つ以上が「はい」なら、下書き作成の範囲でAI化を検討してよい業務です。 以降で扱う経理・総務・営業・人事の業務は、いずれもこの基準で「向いている」側に 分類できるものだけを選んでいます。逆に、与信判断・値引き交渉・人事評価・ クレーム対応の初動は、どの部門でも人が最後まで担う業務として除いています。
詳しく読む: AI化に向いている業務・向いていない業務の見分け方
経理|請求書・経費精算・転記で、月にどれだけ空くか
経理でAIに任せられるのは、仕訳入力・請求書の突き合わせ・月次レポートの下書きの3種類です。 判断が要る税務処理や資金繰りの判断は任せられません。 一般的な業務量から試算すると、経理担当1人あたり月9時間ほどが空く計算になります。
| 業務 | いまの時間(月・1人あたり) | AI化後の時間 | 差 |
|---|---|---|---|
| 仕訳入力 | 6時間 | 2時間 | 4時間 |
| 請求書の突き合わせ | 4時間 | 1.5時間 | 2.5時間 |
| 月次レポートの下書き | 4時間 | 1.5時間 | 2.5時間 |
| 合計 | 14時間 | 5時間 | 9時間 |
試算の前提:会計ソフトの入力データをAIが下書きし、人が確認・修正する運用を想定しています。 紙の請求書が多い、会計ソフトが古いなど、データが整っていない会社ではこの差は小さくなります。
業務を分解すると、さらに細かい削減余地が見えます。請求書発行は「作成」「送付・消込」「催促」の 3段階に分かれ、月100件を扱う会社では作成段階だけで月約35時間が削減目安になります (催促は取引先との関係が絡むため人が対応します)。経費精算のチェックでは、 領収書と申請内容の突き合わせと社内規定との照合をAIに渡すと、 経理担当1人あたり月12時間ほどが浮く試算です。PDFの請求書を表に起こす作業も、 月100枚を処理している場合で月約15時間50分の削減が目安になります。 いずれも金額の最終確認だけは、支払い誤りを防ぐため人が残す前提です。
詳しく読む: 請求書発行の作業を減らす|手作業をなくす3つの段階 経費精算のチェック作業を減らす AIでPDFの請求書を表に起こす
総務|議事録・マニュアル・社内問い合わせで、月にどれだけ空くか
総務でAIに任せられるのは、メールの一次返信、社内からの定型的な問い合わせ対応、 資料の整理・分類です。一般的な業務量から試算すると、総務担当1人あたり 月6時間ほどが空く計算になります。
| 業務 | いまの時間(月・1人あたり) | AI化後の時間 | 差 |
|---|---|---|---|
| メールの一次返信 | 4時間 | 1.5時間 | 2.5時間 |
| 社内問い合わせ対応 | 3時間 | 1時間 | 2時間 |
| 資料の整理・分類 | 3時間 | 1.5時間 | 1.5時間 |
| 合計 | 10時間 | 4時間 | 6時間 |
試算の前提:よくある問い合わせをAIが下書き回答し、人が確認して送る運用を想定しています。
個別の業務で見ると、削減幅がさらにはっきりします。議事録作成は、 「音声を文字にする」「文字を要約してまとめる」までをAIに任せられ、 1時間の会議1回あたり90分かかっていた作成が20分程度まで縮む試算です。 ただし発言者の紐づけや決定事項の確定は、対面の複数人会議で精度が落ちやすく、 人の確認が必要です。業務マニュアル作成は「話す→AIが整理→人が直す」の3段階に置き換えると、 1本あたりの作成時間が6.5時間から2.5時間に縮む見込みです。総務・人事への社内問い合わせは、 規程を読めば答えが決まる質問(有休残日数、経費精算の書式など)だけをAIチャットに任せると、 定型的な一次回答で月7時間ほどの削減が目安になります。人事評価や懲戒に関わる相談は 対象から外し、「担当者に直接連絡してください」と案内する設計にします。
詳しく読む: 議事録作成をAIに任せる|精度を実用レベルにする使い方 業務マニュアルをAIで作る|属人化を外す手順 社内問い合わせ(総務・人事)をAIチャットで受ける作り方
営業|メール・提案書・リストで、月にどれだけ空くか
営業事務でAIに任せられるのは、見積書の下書き、提案書のたたき台作成、 商談の議事録作成です。価格交渉や契約条件の最終判断は人が行います。 一般的な業務量から試算すると、営業事務担当1人あたり月7時間ほどが空く計算になります。
| 業務 | いまの時間(月・1人あたり) | AI化後の時間 | 差 |
|---|---|---|---|
| 見積書の下書き | 4時間 | 1.5時間 | 2.5時間 |
| 提案書のたたき台作成 | 4時間 | 2時間 | 2時間 |
| 商談の議事録作成 | 4時間 | 1.5時間 | 2.5時間 |
| 合計 | 12時間 | 5時間 | 7時間 |
試算の前提:過去の見積書・提案書のひな形をAIに読ませ、案件ごとの差分だけを人が直す運用を想定しています。
見積書作成を工程ごとに見ると、品目の転記・単価の当てはめ・体裁の整形をAIに渡すことで、 月30件を扱う会社で1件あたり40分が9分に縮み、月あたり約15.5時間の削減目安になります。 値引き幅の決定と与信判断は人が残します。提案書のたたき台は、材料集め・構成案・本文下書き・ 数字検証・体裁調整の5手順に分けると、1本あたり120〜225分が60〜105分程度まで縮む計算です。 ただし材料に無い数字・事例をAIが作ってしまうことがあるため、 数字と固有名詞の検証は省略できません。問い合わせメールの一次返信は、 「読む」「分類する」「下書きを作る」までをAIに任せると、月100件の問い合わせで 月7時間の削減が目安です。営業リストの作成では、情報の整理・重複排除・ セグメント分けはAIに任せられますが、「その情報をどこから集めてよいか」という 適法性の判断は個人情報保護法・特定電子メール法が絡むため人が確認します。
詳しく読む: 見積書作成を自動化する方法|中小企業がすぐ始められる手順 AIで提案書のたたき台を作る手順 問い合わせメールの一次返信をAIで下書きする仕組み AIで営業リストを作る|やってよい範囲と法律
人事|求人票・書類選考・シフトで、月にどれだけ空くか
人事・採用でAIに任せられるのは、応募書類の一次確認、面接の日程調整、求人票の下書きです。 採用の合否判断や面接そのものは人が行います。社員10名規模では人事専任がいないことが多く、 一般的な業務量から試算すると、他業務との兼任を前提に月5時間ほどが空く計算になります。
| 業務 | いまの時間(月・1人あたり) | AI化後の時間 | 差 |
|---|---|---|---|
| 応募書類の一次確認 | 3時間 | 1時間 | 2時間 |
| 面接の日程調整 | 2時間 | 0.5時間 | 1.5時間 |
| 求人票の下書き | 3時間 | 1.5時間 | 1.5時間 |
| 合計 | 8時間 | 3時間 | 5時間 |
試算の前提:採用の合否判断や面接そのものは人が行い、AIは書類の要点整理と日程候補の提示までを担う運用です。
書類選考の一次仕分けは、応募書類と募集要件を突き合わせて 「要件を満たしているか」を判定するところまでで、応募10件あたり90分かかる作業が 35分程度まで縮む試算です。ただし合否そのものと人物評価は任せられません。 氏名・年齢・性別など要件判定に不要な情報をAIに見せない設計にしないと、 公平性が壊れます。シフト作成は、従業員の希望と法律・就業規則の条件を 突き合わせて割り当て案を作る作業をAIに任せると、担当1人あたり月9時間ほどが 浮く目安です。誰を優先するか、急な欠勤の穴埋め交渉は人が判断します。 求人票の下書きは、職種情報を箇条書きで渡すと1本あたり60〜90分が20〜30分に 縮む試算ですが、労働条件の明示漏れや誇大表現がないかの最終確認は、 法令に関わるため人が行います。
詳しく読む: 採用の書類選考をAIで一次仕分けする|公平性を保つ設計 シフト作成にかかる時間を減らす方法 AIで求人票を作る手順
どの業務から始めるか
4部門を横断して見ると、経理・総務・営業事務・人事の担当がそれぞれ1名ずついる 社員10名規模の会社で、AIに任せられる業務は合計で月27時間ほどの削減余地があるというのが、 ここまでの試算の合計です。内訳は経理9時間・総務6時間・営業事務7時間・人事5時間です。 これを想定時給3,000円で金額換算すると、月8.1万円前後、年間では約97万円の 人件費に相当します(この時給は事務職の人件費を時間換算した仮の目安で、 自社の実際の人件費に置き換えて計算し直す前提の数字です)。
着手する順番は、次の2点で決めます。
- 削減時間が大きい業務から選ぶ:ここまでの試算では経理・営業事務が大きく出ています。 ただし自社の担当人数・業務量によって順位は変わるため、自社の数字に置き換えて見直します
- 過去データが整っている業務から選ぶ:見積書・請求書・議事録のように、 過去の実例がすでに電子化されている業務は、AIに読ませる準備が少なく済みます。 紙の書類が多い、社員ごとにやり方が違う業務は、AI化の前に手順を整理する作業が先に必要です
複数業務を同時に始めると、確認する人手が分散してどれも中途半端になります。 1業務に絞って2〜3週間試し、削減時間と手直しの回数を記録してから、次の業務に広げる進め方をすすめます。
着手前チェックリスト|自社の業務がAI化に向いているか確かめる
ここまでの基準をそのまま使い、着手する前に1つずつ確かめられる形にしました。 候補の業務を1つ思い浮かべながらチェックしてください。
- □ その業務は、担当者が変わっても毎回ほぼ同じ手順で進んでいるか
- □ 過去の実例(見積書・請求書・議事録など)が電子化されて社内に残っているか
- □ AIが作った下書きを、人が確認してから使う工程を用意できるか
- □ 間違えた場合、その場で気づいて直せる業務か
- □ 最終判断の責任者が誰か、すでに決まっているか
- □ 複数部門を同時に始めようとせず、1業務に絞れているか
- □ 削減時間が大きい業務(自社の実際の担当人数・業務量で見直したもの)から選べているか
5個以上「はい」なら、下書き作成の範囲でAI化を検討してよい業務です。 3個以下なら、AI化の前に手順を1つに統一する作業(業務の棚卸し)を先に行います。
計算例|自社の削減額を、この記事の数字で出してみる
前の節の月27時間を、部門ごとに金額へ直します。使うのは本文に出てきた数字だけです。
| 部門 | 月の削減時間 | 時給 | 月の金額 | 年間の金額(12か月) |
|---|---|---|---|---|
| 経理 | 9時間 | 3,000円 | 27,000円 | 324,000円 |
| 総務 | 6時間 | 3,000円 | 18,000円 | 216,000円 |
| 営業事務 | 7時間 | 3,000円 | 21,000円 | 252,000円 |
| 人事 | 5時間 | 3,000円 | 15,000円 | 180,000円 |
| 合計 | 27時間 | 3,000円 | 81,000円 | 972,000円 |
計算例の前提:社員10名規模で、4部門の担当が1名ずつ。時給3,000円は事務職の人件費を 時間換算した仮の目安です。削減時間は各部門の表の「差」の合計を使っています。
読み方は次のとおりです。
- 4部門すべてで月81,000円、年間で約97万円。本文の金額と一致します
- 経理だけ1業務に絞って始める場合は、経理の行だけを見ます。月27,000円、年間324,000円です
- 経理の中で仕訳入力だけを始めるなら、削減は月4時間です。4時間×3,000円で月12,000円になります
自社の数字にするときは、次の式に置き換えます。
月の金額 = 月の削減時間 × 自社の時給
年間の金額 = 月の金額 × 12
担当が2名いる部門は、表の削減時間が1人あたりの試算のため、その部門の時間を2倍にします。 時給は、自社の給与に社会保険料などを足した1時間あたりの人件費に置き換えてください。
よくある質問
Q. どの部門から始めるのが一番効果が大きいですか。 一般的な試算では経理・営業事務の削減時間が大きく出ますが、これは業種・業務量によって変わります。 自社で最も件数が多く、過去データが電子化されている業務から選ぶのが実務上の近道です。
Q. 判断が要る業務は一切AIを使えませんか。 判断そのものは人が行う前提で、判断のための材料整理(過去の類似案件の要約、 関連データの一覧化など)はAIに任せられます。決定権と作業を分けて考えることが要点です。
Q. 業務の手順が社員ごとに違う場合はどうすればいいですか。 AI化をあきらめる必要はありません。先に手順を1つに統一する作業(業務の棚卸し)を行ってから、 AI化を検討します。手順がバラバラのままAIに渡すと、確認の手間がかえって増えます。
Q. 複数の部門で同時に始めても大丈夫ですか。 すすめません。確認する人手が分散し、どの業務も中途半端になりやすいためです。 1業務に絞って試し、効果が見えてから次に広げる進め方が安全です。
Q. ここでの数字は自社にそのまま当てはまりますか。 当てはまりません。業種・業務量・データの整い方によって数字は変わります。 ここでの数字は、自社で試算し直すための出発点として使ってください。
出典(2026年9月14日調査)
- 個人情報保護法等|個人情報保護委員会 https://www.ppc.go.jp/personalinfo/(営業リスト作成時に個人情報保護法が絡むという記述の確認。数字の相違なし)
- 総務省|特定電子メールの送信の適正化等に関する法律 https://www.soumu.go.jp/main_sosiki/cybersecurity/kokumin/basic/legal/08/(同、特定電子メール法が絡むという記述の確認。数字の相違なし)
- 厚生労働省|2024年4月から労働条件明示のルールが変わります https://www.mhlw.go.jp/stf/newpage_32105.html(求人票の労働条件明示は法令に関わるため人が最終確認するという記述の確認。数字の相違なし)
御社の仕事のうち、AIに渡せるものを診断します。
いくつかの質問に答えると、AIに任せられる仕事と減らせる時間の目安が出ます。運営: 市瀬 大義(福岡。前職で経営企画室長を経て、執行役員CFO)
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