事業継続計画(BCP)のたたき台をAIで作る

BCP(事業継続計画)とは、災害やシステム停止で事業が止まったときに、何を先に戻し、誰が何をするかを決めた計画です。 そのたたき台づくりは、AIに全部書かせる仕事ではありません。 任せられるのは、想定リスクの洗い出し、初動手順の下書き、連絡体制表の枠づくり、訓練シナリオの作成です。 従業員50名の会社の初版づくりで、約52時間が約30時間になる計算です(後述の試算)。 何を優先して守るか、何日で再開を目指すかは、経営者しか決められません。
BCPのたたき台のうち、AIに任せられるのはどこまでか
BCPづくりは、大きく5つの作業に分かれます。
- 事業が止まる原因を洗い出す(地震、水害、停電、システム停止、人手不足)
- 止められない業務を選び、優先順位を付ける
- 止まったときの初動手順と連絡体制を文書にする
- 取引先・仕入先への影響を整理する
- 訓練して、抜けを直す
1・3・4・5は、文章と表をたくさん作る作業です。ここにAIの出番があります。 2は会社の存続に関わる判断で、AIの領域ではありません。
AIは、会社の実際の状況を知りません。 倉庫がどの地域にあるか、主力商品がどれかは、こちらが伝えた範囲でしか分かりません。 だから出てくるのは「一般的な会社ならこう考える」という下書きです。 自社の実情に合わせて直す作業は、人が担います。
AIに入れてはいけない情報は何か
BCPには、社員の連絡先や取引先の情報が入ります。次の情報は、AIに入力しません。
- 社員の氏名、自宅住所、携帯電話番号
- 取引先の社名と担当者名
- 契約金額、仕入価格などの取引条件
- 社内システムのパスワードやアクセス方法
代わりに「担当者A」「取引先1」「拠点1」のような記号で作ります。 表の骨組みまでAIに作らせ、実名と番号は人が手で入れます。
入力した内容がAIの学習に使われる設定のツールもあります。 契約中のツールの設定は、使い始める前に確認します【各自確認:利用するAIツールの、入力内容の取り扱い設定(2026年9月時点)を、提供元の公式ページで確認】。
任せられる作業と、人が決めること
| 作業 | AIに任せてよい部分 | 人が決める部分 |
|---|---|---|
| 想定リスクの洗い出し | 一般的なリスクの一覧づくり | 自社に当てはまるかの判断 |
| 重要業務の整理 | 業務の一覧と影響の聞き取り項目 | どの業務を先に戻すかの順番 |
| 初動手順の文書化 | 手順書の下書き、確認項目の並べ替え | 現場に合う手順かの確認 |
| 連絡体制表 | 表の枠と、連絡文の下書き | 実際の担当者と連絡先 |
| 取引先への影響整理 | 影響を書き出す表の枠 | 取引先との約束事の確認 |
| 訓練シナリオ | 想定場面と進行表の下書き | 訓練の実施と結果の振り返り |
| 再開目標の設定 | なし | 何日で再開するかの決定 |
最後の行が、この記事のいちばん大事なところです。 「何日で再開するか」を決めると、必要な備えの量と費用が決まります。 AIの提案をそのまま採用すると、会社の体力に合わない約束を自分にしてしまいます。
BCPのたたき台は何時間減るのか(試算)
従業員50名、拠点1か所の会社が、初めてBCPを作る場合の計算例です。
| 作業 | いまの時間 | AI化後の時間 | 差 |
|---|---|---|---|
| 想定リスクの洗い出し | 6時間 | 2時間 | 4時間 |
| 重要業務の一覧づくりと材料整理 | 8時間 | 5時間 | 3時間 |
| 初動手順・連絡体制の文書化 | 10時間 | 4時間 | 6時間 |
| 取引先・仕入先への影響整理 | 6時間 | 3.5時間 | 2.5時間 |
| 訓練シナリオの作成 | 5時間 | 2時間 | 3時間 |
| 全体の整形・体裁 | 5時間 | 2時間 | 3時間 |
| 経営者・幹部による判断と会議 | 12時間 | 12時間 | 0時間 |
| 合計 | 52時間 | 30.5時間 | 21.5時間 |
試算の前提は次のとおりです。
- 従業員50名、拠点1か所、総務担当者1名が中心となって作る
- 「いまの時間」は、一般的な業務量からの目安(このサイトの試算)
- 「AI化後」は、AIの下書きを人が読んで直す時間を含む
- 経営判断と会議の時間は、AIでは減らないものとして同じ時間にした
- 総務担当者の時給を2,500円と仮定すると、21.5時間で約5.4万円分(仮定の金額)
実際の時間は、会社の事業内容と拠点の数で大きく変わります。 書式の直しに時間がかかる場合は、差が小さくなります。
手順とAIへの指示文の文例
たたき台づくりの手順は、次の5段階です。
- 自社の事業の概要を、記号を使って1段落にまとめる
- AIに想定リスクの一覧を出させる
- 経営者が「自社に当てはまるもの」だけを選ぶ
- 選んだリスクごとに、AIに初動手順の下書きを出させる
- 読み合わせをして、現場の言葉に直す
文例1:想定リスクの洗い出し
あなたは中小企業の総務担当を手伝うアシスタントです。
次の会社について、事業が止まるおそれのある原因を、
「自然災害」「設備・システム」「人」「取引先」の4分類で、
各5個ずつ挙げてください。
会社の概要:
・業種:食品の卸売
・従業員:50名、拠点は1か所(本社兼倉庫)
・主な取引:スーパー向けの毎日配送
・パソコン上の受発注システムを使っている
出力は表にして、列は「原因」「止まる業務」「影響の大きさ(高・中・低)」
としてください。分からない点は推測せず「要確認」と書いてください。
業種・従業員数・主な取引を自社の内容に置き換えます。 「影響の大きさ」はAIの推測なので、経営者が見て直します。
文例2:初動手順の下書き
次のリスクが起きた場合の、最初の3時間の初動手順を作ってください。
リスク:震度6弱の地震が平日の日中に発生
前提:従業員50名、拠点1か所、倉庫に商品在庫あり
出力の形:
・時間順の手順(例:0〜30分、30分〜1時間、1〜3時間)
・各手順の担当は「担当者A」「担当者B」など記号にする
・手順ごとに、確認すべきことを□の行で3つまで付ける
実在の人名・電話番号・社名は書かないでください。
リスクと前提を、自社で選んだ内容に置き換えます。 担当の記号は、人が実際の役職と名前に差し替えます。 自治体が出している被害予想の地図は、AIに聞かず、自治体の公式ページで確認します。
導入前チェックリスト
AIを使い始める前に、次を確認します。
□ 社員の氏名・連絡先・取引先名を入れずに、記号で作る方針を決めた □ 使うAIツールの、入力内容の取り扱い設定を確認した □ 「何日で再開を目指すか」を決める経営者と会議の日程を押さえた □ 下書きを読み合わせる現場の担当者を2名以上決めた □ 自治体の被害予想の地図と、加入している保険の内容を手元に用意した
3つ以上チェックが付かない場合は、AIの前に、経営者の判断を先に済ませます。
任せてはいけないところ
次の4つは、AIに決めさせません。
- 再開目標の決定。 何日で戻すかは、費用と会社の体力の兼ね合いです
- 優先業務の順番。 売上の柱と、取引先との約束は、経営者が知っています
- 被害の数字の見積もり。 AIは被害額や復旧日数を、それらしく作ってしまいます
- 公的な制度の内容。 中小企業庁の「中小企業BCP策定運用指針」や、中小企業等経営強化法に基づく「事業継続力強化計画」の認定条件は、公式の資料で確認します【各自確認:BCP策定運用指針の最新版と、事業継続力強化計画の認定の条件は、中小企業庁の公式ページ(chusho.meti.go.jp)で確認】
AIの下書きは、そのまま社内に配る資料ではありません。 現場で読み合わせをして、実際に動く訓練をして、抜けを直してから使います。 訓練をしていない手順書は、災害の当日に動かないことが多いためです。
よくある質問
Q1. BCPは作らないと法律違反になりますか。
多くの中小企業では、作成そのものが一律に義務づけられているわけではありません。 業種によって扱いが異なります。たとえば介護サービスの事業者は、厚生労働省の介護報酬改定(令和3年度)で業務継続計画の策定が義務づけられ、3年間の経過措置を経て令和6年4月から義務化されています。 自社の業種の決まりは公式の情報で確認します【各自確認:自社の業種にBCPの作成義務があるかは、所管の官庁の公式ページで確認】。
Q2. AIが作った初動手順を、そのまま使えますか。
使えません。AIは自社の建物・人員・取引先を知らないためです。 下書きを現場で読み合わせ、訓練で動かして、抜けと現実に合わない点を直します。
Q3. 自社の地域の災害リスクを、AIに聞いてよいですか。
地域の被害予想はAIに聞かず、自治体の公式ページで確認します。 AIは地域の被害想定を、もっともらしく間違えることがあります。 確認した内容を、人がAIへの材料に書き足す順番にします。
Q4. 停電でパソコンが使えないときの手順も、AIに作らせられますか。
作れます。ただし、AIの下書きは「パソコンが使える前提」になりがちです。 停電を想定するときは、紙の受発注書と、電話での連絡手順を最初に指定して作らせます。
Q5. 何人くらいの会社から、BCPを作る意味がありますか。
人数より、止まったときに困る取引先の有無で決めます。 毎日納品する相手や、納期の約束が厳しい相手がいる会社は、10名でも必要です。
読んだ内容の確認に3問だけ。押すと答えが開きます。
Q1. 災害で事業が止まったとき、どの業務から先に再開するかの順番は、AIの提案どおりに決めてよい。
× — 優先順位は売上・取引先・従業員への影響を見て経営者が決めると本文で述べている。
Q2. AIに渡す連絡体制の材料では、社員の名前や電話番号を「担当者A」などの記号に置き換える。
○ — 個人の氏名や連絡先はAIに入れず、記号で作ってから人が差し替えると本文で述べている。
Q3. AIが作った初動手順の下書きは、実際に動かす訓練をしなくても、そのまま使える。
× — 下書きは現場で読み合わせと訓練をして、抜けを直してから使うと本文で述べている。
御社の仕事のうち、AIに渡せるものを診断します。
いくつかの質問に答えると、AIに任せられる仕事と減らせる時間の目安が出ます。運営: 市瀬 大義(福岡。前職で経営企画室長を経て、執行役員CFO)
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