支払調書の作成事務をAIで軽くする

支払調書の作成にAIを使うと、何時間減らせるのか。任せられるのは、帳簿データ からの対象者の抽出、支払先ごとの金額集計、様式への転記の3つです。マイナン バーの確認・管理や、対象区分・源泉徴収の要否といった税務判断は、引き続き 担当者が行います。一般的な業務量から試算すると、支払先50件規模の会社で 年間10〜15時間前後の削減余地になる計算です(後述の試算)。
支払調書の作成は、何にいちばん時間を使っているか
支払調書は、税理士・デザイナー・ライターなど個人事業主への報酬や、原稿料・ 講演料といった一定の支払い(所得税法204条1項に定める報酬・料金など)につい て、支払先・金額をまとめて税務署に提出する書類です。提出義務の根拠は所得税法 225条1項3号です。年に一度の作業ですが、次の工程に時間がかかります。
- 帳簿・会計データから、対象になりそうな支払いを1件ずつ拾い出す作業
- 支払先ごとに、年間の支払額を集計し直す作業
- マイナンバー(個人番号)が登録済みかどうかの確認
- 様式(国税庁の定める支払調書)への転記
- 前年の提出データとの突合による記載漏れのチェック
このうち対象者の抽出・集計・転記は、手順そのものは毎年ほぼ同じです。判断が 固定されている作業ほど、AIに下書きを作らせやすくなります。
AIに任せられる作業と、任せられない作業の切り分け
すべてを任せられるわけではありません。切り分けの基準は「金額や個人情報の 取り扱いに、法律上の責任が伴うかどうか」です。
| 任せられる | 任せられない |
|---|---|
| 帳簿データからの対象者候補の抽出 | 対象区分・金額基準に照らした最終判断 |
| 支払先ごとの年間支払額の集計 | マイナンバーの確認・入力・管理 |
| 様式への転記(下書き) | 源泉徴収の要否の判断 |
| 前年データとの突合・記載漏れの洗い出し | 税務署への提出そのもの |
支払調書は支払いの種類ごとに対象となる金額の基準が定められています。 弁護士・税理士などへの報酬、作家・画家への原稿料や画料、講演料などは、 同一人に対するその年中の支払金額の合計額が5万円を超える場合に提出が 必要です(国税庁「No.7431 「報酬、料金、契約金及び賞金の支払調書」の提出範囲 と提出枚数等」)。デザイン料も、原稿料などと同じ所得税法204条1項1号の報酬・料金に 含まれ(国税庁 所得税基本通達204-6「原稿等の報酬又は料金」・204-7「デザインの 範囲」)、外交員報酬などの 特例を除く一般の報酬・料金として、同じく年間5万円超が提出の基準になります (国税庁「令和7年分 給与所得の源泉徴収票等の法定調書の作成と提出の手引」 第4「報酬、料金、契約金及び賞金の支払調書」)。請求書で報酬額 と消費税額が区分されている場合は、消費税を除いて金額基準を判定できます (国税庁 質疑応答事例「消費税等が含まれている場合の提出範囲の金額基準及び 記載方法」)。この基準に照らして「対象に含めるかどうか」を最終的に決める のは担当者の仕事です。AIには、基準に近い支払いを見落とさず候補として 挙げさせる使い方が向いています。
支払調書の作成をAIに任せると何時間減るか(試算)
帳簿データをもとに、対象者の抽出から様式への転記までをAIに下書きさせた 場合の試算です。
| 業務 | いまの時間(目安) | AI活用後 | 差 |
|---|---|---|---|
| 対象者の抽出・年間集計(支払先50件分) | 6〜8時間 | 2〜3時間 | 4〜5時間 |
| 様式への転記(1件あたり10〜15分想定・50件分) | 8〜12時間 | 3〜4時間 | 5〜8時間 |
| 前年データとの突合・記載漏れチェック | 2〜3時間 | 1時間 | 1〜2時間 |
| 合計 | 約16〜23時間 | 約6〜8時間 | 約10〜15時間 |
前提:支払先50件規模の会社を想定し、支払データがすでに表計算またはクラウド 会計に入力済みであることを条件とした目安です。マイナンバーの確認・入力・ 最終確認にかかる時間は、判断を伴う作業のためこの試算に含めていません。
AIへの指示文の文例(対象者抽出・金額集計用)
年間の支払データを貼り付けて、対象になりそうな支払先を洗い出させるときの 指示文です。
以下は当社の年間支払データです(支払先名・支払日・金額・摘要)。この中から、
支払調書の対象となりそうな支払い(原稿料・デザイン料・講演料・士業への
報酬など、個人事業主への支払い)を抽出し、支払先ごとに年間の合計額を
一覧にしてください。金額基準に近く判断に迷う支払いは、除外せず
「要確認」として残してください。
なお、マイナンバーや口座情報など、この時点で不要な個人情報は入力して
いません。
【年間支払データ】
(ここに支払先名・支払日・金額・摘要の一覧を貼り付ける)
「摘要」の欄は、自社の帳簿・勘定科目の項目名に置き換えて使います。マイナ ンバーなど不要な個人情報を貼り付けない前提を指示文にも明記しておくと、 入力ミスを防ぐ歯止めになります。
導入前チェックリスト
支払調書の作成にAIを使い始める前に、次の3点を確認します。
- □ 帳簿データに、支払先名・支払日・金額・摘要(業務内容)が入力されているか
- □ マイナンバーなど個人情報を、無料版のAIツールにそのまま貼っていないか (入力内容が学習に使われる設定になっている場合があるため、設定を確認 したうえで使う)【各自確認:利用中の生成AIツールが入力内容を学習に使うか。 各ツールの公式ヘルプの「データの利用」の項目、または利用規約で確認】
- □ AIが抽出した対象者候補を、担当者が目視で最終確認する手順になっているか
マイナンバーと税務判断は誰が最終確認するか
支払調書には、支払先のマイナンバー(個人番号)を記載する必要がある場合が あります。マイナンバーを含む個人情報は、番号法(マイナンバー法)により 「特定個人情報」として個人情報保護法より厳格な利用制限・安全管理措置が 定められています。たとえば番号法では、本人の同意があっても利用目的を超えて 使えません(個人情報保護委員会「特定個人情報の適正な取扱いに関するガイド ライン(事業者編)」令和6年5月一部改正版)。無料版のAIツールへ直接入力することは避けるべき です。管理は社内の専用システムや、限られた担当者だけがアクセスできる 方法で行います。
対象区分にあたるかどうかの判断、源泉徴収の要否、提出範囲の最終確認は、 税理士や税務署に確認しながら担当者が行う業務として残ります。AIが作った 候補リストをそのまま提出書類として使うことはできません。
よくある質問
Q. 支払調書の対象になるかどうかの判断もAIに任せられますか。
対象になりそうな支払いの候補を挙げるところまでは任せられます。ただし 対象区分や金額基準に照らした最終判断は、担当者が確認する必要があります。
Q. マイナンバーの管理にAIを使ってよいですか。
マイナンバーは番号法(マイナンバー法)により特定個人情報として扱いが 定められているため、無料版のAIツールに直接入力することは避けるべきです。 管理は専用の方法で行います。
Q. 支払調書の提出期限はいつですか。
支払調書・法定調書合計表は、原則として支払が確定した日の属する年の翌年 1月31日までに提出します(国税庁「No.7400 法定調書の提出義務者」)。 期限の日が土曜日・日曜日・休日にあたるときは、国税通則法10条2項により翌日が 期限になります。たとえば令和7年分の提出期限は、1月31日が土曜日のため 令和8年2月2日(月)でした(国税庁「令和7年分 給与所得の源泉徴収票等の法定 調書の作成と提出の手引」)。
Q. 支払先が少ない会社でも導入する意味はありますか。
支払先が数件程度であれば、AIを使わなくても手作業で十分対応できる場合が あります。件数が増えて担当者が集計・転記に時間を取られている会社ほど、 削減の効果は大きくなります。
Q. 導入にあたって費用はどれくらいかかりますか。
利用するAIツールによって料金は異なります。【各自確認:契約予定の生成AI ツールの料金プラン。各社公式ページの料金ページで確認】契約前に各社の 公式ページで最新の料金を確認してください。
自社の支払先件数をもとに、支払調書の作成で何時間減らせるかは、無料の AI業務診断で概算できます。
読んだ内容の確認に3問だけ。押すと答えが開きます。
Q1. 支払調書の対象となる支払いの候補をAIが抽出したら、そのまま提出書類として使ってよい。
× — 抽出は下書きであり、対象区分や金額基準に照らした最終確認は担当者が行うと本文で述べた。
Q2. マイナンバーなどの個人情報は、無料版のAIツールに直接入力してよい場合がある。
× — マイナンバーは特定個人情報として扱いが定められており、AIツールへの直接入力は避けるべきだと本文で述べた。
Q3. 支払先ごとの年間支払額の集計や様式への転記といった定型作業は、AIに任せやすい。
○ — 判断を伴わない集計・転記はAIに向いていると本文で説明した。
御社の仕事のうち、AIに渡せるものを診断します。
いくつかの質問に答えると、AIに任せられる仕事と減らせる時間の目安が出ます。運営: 市瀬 大義(福岡。前職で経営企画室長を経て、執行役員CFO)
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